宮武外骨 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
大阪の書肆中に於ける第一の人格者と認められて居た故荒木伊兵衛氏、其性格の温厚、篤実は実に算盤玉をはじく人に不似合と思はれるほどであつた、それで予は在阪十余年間、絶えず伊兵衛氏の厄介になつて居たので、東京に帰つて後も其ナツカシ味が失せず、時々の音信を嬉しく思つて居たが、突然の訃に接して愕き悲んだことは尋常でなかつた、それがハヤ壱周忌の記念として血嗣の旧幸太郎氏が、「古本屋」といふ雑誌を創刊するとの報、何を捨置いても故人の追善供養として一稿を寄せずばならぬと、忙中筆を呵して思出のまゝを草したのが此一篇である。 明治四十一年の十月下旬、鹿田松雲堂へ立寄ると主人静七氏が予に対して云ふには「西鶴の好色一代男を先頃手に入れましたが、誰も買人が無いので困つてゐます、先生一つ買つて下さいませんか」とのこと、予は絵本買入が専門であつたので「浮世草紙は集めない事にして居るのであるが、一代男は其代表物であり、絵入本であるから、廉価なれば買つて置いてもよろしい、代価はイクラです」との交渉で、遂に天和二年大阪思案橋際荒砥屋版の大本八冊を三十二円で買つた、それを江戸堀南通四丁目の宅へ持つて帰ると、亡妻が「マタ古本
宮武外骨
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