Vol. 2May 2026

書籍

パブリックドメイン世界知識ライブラリ

全 14,981 冊中 7,536 冊を表示

徒歩

片山広子

徒歩 片山廣子 銭形平次の時代には乗物といつてもバスも電車もなく、さうむやみとお駕籠にも乗れなかつたらうから、八五郎が聞きこみをすれば、向う柳原の伯母さんの家からすぐ飛び出して神田の平次の家まで駈けてゆく。そらつと言つて平次は両国だらうが浅草だらうが吉原だらうが行つてみなければならない。歩く方に精力を使つてくたびれてしまふだらうと思はれるけれど、その時分はそ

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徒歩旅行を読む

正岡子規

紀行文をどう書いたら善いかという事は紀行の目的によって違う。しかし大概な紀行は純粋の美文的に書くものでなくてもやはり出来るだけ面白く書こうとする即美文的に書こうとする、故に先ず面白く書くという事はその紀行全部の目的でなくても少くも目的の五分は必ずこれであると極めて置いて、さてその外の五分は人によって種々雑多に書かれて居る事である。一、二の例をいうて見ると、山

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徒然草の鑑賞

寺田寅彦

徒然草の鑑賞 寺田寅彦 『文学』の編輯者から『徒然草』についての「鑑賞と批評」に関して何か述べよという試問を受けた。自分の国文学の素養はようやく中学卒業程度である。何か述べるとすれば中学校でこの本を教わった時の想い出話か、それを今日読み返してみた上での気紛れの偶感か、それ以上のことは出来るはずがない。しかし、それでもいいからと云われるので、ではともかくもなる

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従妹への手紙 「子供の家」の物語

宮本百合子

すみ子さん、こんにちは! 今日は湯浅さんとふたりで、珍しいところを見て来たから、忘れないうちにそのことを書きます。「子供の家」を見学して来たのです。 ソヴェト同盟には「子供の家」というものがあるのを、知っている? 親のない子供や、または親があってもいろいろわけがあって一緒に暮らせないような時、ソヴェト同盟には「子供の家」というのがあって、そこで食べさせて、着

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従軍紀事

正岡子規

国あり新聞なかるべからず。戦あり新聞記者なかるべからず。軍中新聞記者を入るるは一、二新聞のためにあらずして天下国家のためなり兵卒将校のためなり。新聞記者にして已に国家を益し兵士を利す。乃ちこれを待遇するにまた相当の礼を以てすべきや論を竢たず。而してこれを日清戦争の実際に徴するに待遇の厚薄は各軍師団各兵站部に依りて一々相異なり、甲は以てこれを将校に準じ乙は以て

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『キング』で得をするのは誰か

宮本百合子

『キング』で得をするのは誰か 宮本百合子 サークル活動をするものの心得として、よく云われる言葉がある。それは、サークルというものは『キング』の読者をもひっくるめての文化的政治的組織でなければならないという言葉である。 現在『キング』がそれほどひろく大衆の間によまれる魅力は一体どこにあるのであろうか。そう思って『キング』二月号を五十銭出して買った。五百十五頁の

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御国のために

根岸正吉

歩いて帰れ、歩いて帰れ、 忠君愛国者よ。 東京から故郷まで一百三十里 お前は稼いだ、働いた。 熱心に着実に、ほめらるる迄、 海軍将校なる主人のために。 主婦のために。 男爵家のために。 お前は徴兵検査のために帰郷する、 その旅費をもたぬ。 御国の為だ。 国民の義務だ。 歩いて帰れ、歩いて帰れ 忠君愛国者よ 東京から故郷まで一百三十里。 (発表誌不詳 『どん底

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御国座へ ――江戸狂言の源之助君――

折口信夫

芝居への注文が大分出る様ですから、私も尻馬に乗つて、御国座の事を申させて頂きます。あの芝居は何と言つても、源之助が持つて、死んで行く江戸の狂言の活きた記録を頭に印象させる為に行く見物が中心になつて居るので、新しい芸術を云々される先生方も忍んで見学に行つて居られます。所が若手の大頭の注文からあまり狂言を並べ過ぎるので、肝腎の源之助の出し物を昼は出さなかつたり、

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御存与太話

国枝史郎

新青年の五月号平林初之輔氏の「犠牲者」は、感銘の深い作でした。いろいろの緊急な社会問題が、ずいぶん沢山織り込んであるのが、際立った特色をなして居ります。遂に日本の探偵創作界へも、こういう作が産れたかと、感謝したいような作品です。私はこの作を読んだ時、ガルスウォシイの社会劇を、ふと心へ思い浮かべました。この作を読んだ大方の人は、可成り長い間考えさせられ、憂鬱に

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御時務の儀に付申上候書付

福沢諭吉

去る午年西洋諸國と御條約御取結に相成、新規御改法有之候所、太平打續候餘り、人の耳目に馴れざる義に付、御改法の御趣意は篤と承知も不仕、一時人氣動搖いたし候所え、諸藩士竝に浪人の輩、平生其身に不足有之候者共、人氣の騷立候を好き折といたし、妄に鎖國攘夷抔申儀を唱へ、諸大名え説込、又は京都え立入、議論の不及所は力業にて公然と人を殺害致す等、其勢追々増長致候に付、一に

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クリナーンの御殿

ハイドダグラス

むかしむかし、ミーオー(メイヨー)県とロスコモン県のあいだを流れる川のほとりに、身分の高い人たちがおおぜいやって来て、住むのにいい場所を川岸にさがして、そこに御殿を建てた。この人たちがどこから来たのか、まわりのちいさな村ではだれも知らなかった。マクドネルというのが、その一族の名前だった。長いあいだ、近くの村の人たちは御殿とつきあいがなかったが、あるとき病気が

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御殿の生活

中谷宇吉郎

御殿というのは、私の田舎に近い城下町の昔からの殿様の御殿のことである。封建時代の殿様の生活から、現今の東京における華族の生活に移る間に、田舎の旧藩下で、御殿の生活の名残りを送った殿様が、どこにも沢山あったことと思われる。 その城下町も、今では急激に発達した輸出絹布の工場が沢山出来て、小さい工場町の感じが見えるのであるが、私の小学校時代には、旧い伝統の香りに満

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御萩と七種粥

河上肇

御萩と七種粥 河上肇 私の父方の祖父才一郎が嘉永五年七月一日、僅か六畳一間の栗林家の門部屋で病死した時――栗林家の次男坊に生れた才一郎は、この時すでに河上家の養子となっていたが、養家の瀬兵衛夫婦がまだ生きていた為めに、ずっと栗林家の門部屋で生活していたのである、――彼の残した遺族は三人、うち長男の源介(即ち私の父)は五歳、長女アサ(即ち私の叔母)は三歳、妻イ

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御返事(石原純君へ)

寺田寅彦

御返事(石原純君へ) 寺田寅彦 御手紙を難有う。『立像』の新短歌について何か思ったことを書けとの御沙汰でしたから手近にあった第三号をあけてはじめから歌だけ拾って読んで行きました。読んでいるうちにふと昨夜見た夢を想い出したのです。 見知らぬ広い屋敷の庭に大きな池がある。大きな船が浮んでいる。それが船のようでもあり座敷のようでもある。天井がない。今に雨が降り出す

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御馳走の話

中谷宇吉郎

正月の御馳走というと、いつでも思い出す話がある。それは小林勇君が、露伴先生から聞いた話である。 大分前のことであるが、或る正月に、小林君が露伴先生のお宅を訪れたときの話である。多分昆布巻、数の子、田作という、昔ながらの品々が、膳の上に並んでいたのであろう。それをつまみながら、例によって無遠慮な男のことであるから、「正月の御馳走といえば、どうしてこう不味いもの

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復員

坂口安吾

四郎は南の島から復員した。帰つてみると、三年も昔に戦死したことになつてゐるのである。彼は片手と片足がなかつた。 家族が彼をとりまいて珍しがつたのも一日だけで翌日からは厄介者にすぎなかつた。知人も一度は珍しがるが二度目からはうるさがつてしまふ。言ひ交した娘があつた。母に尋ねると厄介者が女話とはといふ顔であつた。すでに嫁入して子供もあるのだ。気持の動揺も鎮つての

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「復員殺人事件」について

坂口安吾

七八月にわたって病気のため「復員殺人事件」が中絶、申しわけありません。毎月三ツしか書かない連載ですが、その一つが月々百枚を越しており「復員」が又月々五十枚から七八十枚の長さですので、病後の過労をさけるため「復員」をちょッと休ませてもらいました。どうやら元気になりましたから、来年一月号から連載をつゞけます。まだ少くとも五六回はかゝる予定、事件は非常に複雑ですか

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復活祭

久生十蘭

二時半に食堂部が終ると、外套置場と交換台に当番をおいてレジスターやルーム・メイドが食事に行く。客室から信号も鳴らず帳場へくる客もなく、ラウンジに外来が二三人残るほか、四時ぐらいまでのあいだ社交部といっているあたりがひっそりする。 八時から昼食までの伝票を分けて室別になった整理棚へほうりこむと、鶴代の今日のおつとめはおしまいになった。電車でフラットへ寝に帰る気

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復讐

徳田秋声

たえ子はその晩も女中のお春と二人きりの淋しい食卓に向つて、腹立しさと侮辱と悲哀とに充された弱い心を強ひて平気らしく装ひながら箸を執つてゐたが、続いて来る苛々しい長い一夜を考へると、堪えられない苦痛を感じた。 たえ子がこゝへ嫁いでから、彼是一年近くになつてゐた。勿論それは偶然の――と謂つても、今の世のなかで善良な普通の家庭に於ける結婚を取決める場合に、尽される

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復讐

豊島与志雄

復讐 豊島与志雄 夢の後味というものは、なにかはかなく、しんみりとして、淋しいことが多い。山川草木、禽獣、幽鬼、火や水、自分自身の飛行や墜落、そういう類のものは別として、人間の夢となれば、ちと、後ろ髪を引かるる思いまでする。 夢に出てくる人々は、私にあっては、たいてい、平素忘れがちな人々である。日常、親しく交際してる人々とか、身辺近くにある人々など、つまり、

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復讐・戦争・自殺

北村透谷

復讐・戦争・自殺 北村透谷 復讐 人間の心界に、頭は神にして脚は鬼なる怪物棲めり。之を名けて復讐と云ふ。渠は人間の温血を吸ひて人間の中に生活する無形動物にして、古へより渠が為に身を誤りたるもの、渠によりて志を得たるもの、渠の為に苦しみたるもの、渠の為に喜びたるもの、挙て数ふべからざるなり。 見よ、戯曲は渠を以て上乗の題目とするにあらずや、見よ、世間は渠を以て

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微笑

豊島与志雄

微笑 豊島与志雄 私は遂に女と別れてしまった。一つは周囲の事情が許さなかったのと、一つは私達の心も初めの間ほどの緊張を失ってしまっていたのと、二つの理由から互に相談の上さっぱりと別れてしまった。一切の文通もしないことにした。其後女は、下谷から芳町の方へ住替えたとも風の便りに聞いたが、別に私の好奇心をも唆らなかった。私は何物にも興味を失っていた。長い間のだらけ

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微笑の渦

徳田秋声

K氏を介しての、R大使館からの招待日だつたので、その日彼は袴などつけて、時刻がまだ早かつたところから、I子の下宿へ寄つて一と話してから出かけた。 R大使館の所在を、彼は明白には知らなかつた。勿論招待の意味についても、明確なことはわからなかつた。しかし大凡その見当はわかつてゐた。気のきいた運転士が車をつけたところが、果してそれであつた、彼は門前で車をおりて、右

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