伊藤左千夫 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
姪子 伊藤左千夫 麦搗も荒ましになったし、一番草も今日でお終いだから、おとッつぁん、熱いのに御苦労だけっと、鎌を二三丁買ってきてくるっだいな、此熱い盛りに山の夏刈もやりたいし、畔草も刈っねばなんねい……山刈りを一丁に草刈りを二丁許り、何処の鍛冶屋でもえいからって。 おやじがこういうもんだから、一と朝起きぬきに松尾へ往った、松尾の兼鍛冶が頼みつけで、懇意だから、出来合があったら取ってくる積りで、日が高くなると熱くてたまんねから、朝飯前に帰ってくる積りで出掛けた、おらア元から朝起きが好きだ、夏でも冬でも天気のえい時、朝っぱらの心持ったらそらアえいもんだからなア、年をとってからは冬の朝は寒くて億劫になったけど、其外ん時には朝早く起きるのが、未だにおれは楽しみさ。 それで其朝は何んだか知らねいが、別けて心持のえい朝であった、土用半ばに秋風が立って、もう三回目で土用も明けると云う頃だから、空は鏡のように澄んでる、田のものにも畑のものにも夜露がどっぶりと降りてる、其涼しい気持ったら話になんなっかった。 腰まで裾を端しょってな、素っ膚足に朝露のかかるのはえいもんさ、日中焼けるように熱いのも随分つれい

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