伊藤野枝 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
私たちに取つては内生活の窮迫もこの上なく苦しいことには相違はないけれど、物質的の窮迫もまた往々かなしい矛盾を持ち来たしては私たちの生活を揺り動かさうとする。そうして私たちを脅かす。 自分に出来得るかぎりの力を出して働いてさへも必要な金を得ることの六ヶしい人達の方が多数を占めてゐる現在の状態にあつては、物質的な満足を少しでも得やうとするにはたゞ一図にその為めにばかり機械のやうに一生懸命に休むことなくあれこれと働かねばならない。働くと云ふことに興味のある人、愉快を感ずる人、或はまた物質的な満足によつて働くことに意義を見出し得る人はそれでも幸福である。内心に不満を持ちながら家族を扶養しなければならぬ為めに渋々苦しい努力を続けてゐる人は気の毒に堪えない。 私はさう云ふ気の毒な人に向つて自分達の生活の保証を得たい為めに無理やりに働いて貰ふ苦痛には堪えられない。けれども働いてゐてすらも満足な金の這入りやうのない者に、遊んでゐて金を貰へるあてはどうしたつてないのだ。そうして必然の結果として貧乏に見舞はれる。けれどそれが自分丈けのうちは何でもない。ひとりで忍んでゐるうちはまだいゝ、或は愛する二人での間

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