伊藤野枝 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
□永い間不如意な経済の遣繰りや方々の書店との交渉やそれからまだ外の細々した面倒な仕事と雑誌の編輯で疲れきつたらいてう氏は十月十二日に千葉県の御宿村へ行つた。後に残された私はそれ等の仕事をすつかりしなければならなかつた。二ヶ月位はどんな苦しいことでも忍ぶ義務があるとらいてう氏は十一日に私が社に行つたときに笑ひ笑ひ云つた。私も苦しむでも仕方がないと思つた。□けれども実際やらなければならないとなつて見ると大変だ。私はすつかりまごついてしまつた。相談する人もない。加勢をたのむ人もない。こんな時に哥津ちやんでもゐてくれるとなど愚痴つぽいことも考へる。広告をとりにゆく、原稿をえらぶ、印刷所にゆく、紙屋にゆく、そうして外出しつけない私はつかれきつて帰つて来る、お腹をすかした子供が待つてゐる、机の上には食ふ為めの無味な仕事がまつてゐる。ひまひまを見ては洗濯もせねばならず食事のことも考へねばならず、校正も来ると云ふ有様、本当にまごついてしまつた。その上に印刷所の引越しがあるし雑誌はすつかり後れそうになつてしまつた。広告は一つも貰へないで嘲笑や侮蔑は沢山貰つた。私はすべてのことを投げ出したくなつてしまつた

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