大倉燁子 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
一つの事件の解決がつくと、S夫人はまるで人間が変ったように朗かになる。それが難しい事件であればあるほど、すんだあとは上機嫌だ。 「また何か変ったお話、聞かせて下さいましな」 そういう時を狙っては、彼女からいろいろ面白い話を聞いた。 S夫人はテーブルの上のチェリー・ブランデーの瓶をとって、美しいカット・グラスに注いで自分も呑み、私にもすすめながら云った。 「上流の家庭内に起った事件というものは、よく、うやむやのうちに葬り去られて、その真相は永久に、社会の表面にはあらわれずじまいに終ってしまう、というようなことが沢山ありましょう。このお話もその一つですが」 と云いながら椅子を離れて隣室の書斎へ行ったが、少時すると一冊のスクラップ・ブックを持って帰って来た。夫人はその中ほどを開いて私の前に置いた。私は思わず目を瞠って云った。 「まあ! お美しい方! 御結婚のお写真でございますね、何方さんでございます?」 「麻布の御木井男爵ですの。御木井合名会社の社長さん御夫妻ですよ」 「若い社長さんですこと!」 「ああいう大富豪になるとなかなか面倒なものと見えて、代々総家の相続人が社長の椅子に座ることに定っ

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