尾崎士郎
尾崎士郎 · 日本語
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尾崎士郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
十二月七日。椰子の葉が風にゆれている。ブルー・バードの河岸はいつも見る同じ風景ではあったが、鳴りをしずめた自然の中にさえ無気味な影がちらついている。ブルー・バードの並木道へ出るとさすがに冬の気配が心にせまるようであった。空は青く雲のかげも見えないほど澄みきっているし、防波堤の上には散歩服を着たスペインの女が何時ものように、ゆったりとした足どりであるいている。それさえも、現在の自分とはもう縁もゆかりもないもののように思われた。朝の海にはアメリカの軍艦が湾口に錨をおろしている。靄につつまれた大気をとおして一つ、二つと数えているうちに、このおだやかな海がやがて砲煙にとざされる日のちかづきつつあるという思いがぐっとこみあげてきて、私は急に胸のひきしまるのをおぼえた。 人通りのすくないマビーニの街である。アカシヤの若葉にかこまれた事務所の門を入ると自動車をおりたところで同僚の相川に逢った。 「いよいよ切迫して来たぞ」 「うん」笑おうとしたが、すぐ何か厳粛なものにつよく胸をしめつけられた。笑いきれないものが唇の上によどんでいる。入口の掲示板には社員は食堂に集合すべしと書いてあるので、相川と一緒に駈
尾崎士郎
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