折口信夫 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
こんなに立派な本が出来たのですから、私の序文など必要がない訣です。たゞ、著者への親しみが、何か言はせずに措かないのです。 かぐらと言ふ語の解釈は、西角井さんにも出来てゐると思ひますが、猶少しばかり申し添へて置いた方が、便利かと思ひます。普通世間の人が言うてゐる解釈は、私たちを刺戟しませんから、こゝに並べる事を止めます。端的に言ふと、日本の神座に移動的なものがあつて、其が一つ、有力なものであつた事を見せてゐるのだと思ひます。 此語の意義は平凡です。音韻変化を持つて来る事は不自然になりますから控へますが、結局、かぐらは神座といふ熟語に過ぎません。かむくらがかぐらとなるのは自然の事です。しかし、どの神座でもかぐらと言うたのではなく、或種類の神座を、専らかぐらと言うてゐたのです。若、さうでなければ、其らの人達の持つてゐたものが有力になつて、其人らの持つてゐるものばかりを言ふ様になつたのでせう。其には、条件があります。つまり、旅をして、言ひ換へれば、移動して歩く神座に対して、世間の人が、其らの人の語を認めて、かぐらと言うた訣です。 さて、其かむくらなるものは何かと言ふと、神体を入れる容物です。し
折口信夫
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