加能作次郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
私が伯父を頼つて、能登の片田舎から独り瓢然と京都へ行つたのは、今から二十年前、私の十三の時であつた。 私の父は京都生れの者で、京都には二人の兄と一人の姉とが居た。長兄は本家の後を嗣いで万年寺通に仏壇屋をやつて居たし、次兄は四条橋畔に宿屋と薬屋とをやつて居り、姉は六条の本願寺前に宿屋を営んで居た。そして私の姉は、その三年前、十三の年に京都へ行つて、六条の伯母の家におちよぼとなつて居た。私は四条の伯父の許へ行つたのであつた。 四条の伯父は其の年の初夏の頃初めて能登へ来て寄つた。病後の保養かた/″\加賀の山中温泉へ、妾と二人連れでやつて来た序に、自分だけその弟なる私の父の許へ立ち寄つたのであつた。 贅沢で我儘で気むづかしい都育ちの伯父の気質としては、迚も堪へられさうに思はれない汚ない、不自由な、侘びしい漁村ではあつたが、空気がよいのと、新鮮な魚が多いのとの為であつたか、伯父は彼是一月ばかりも滞在して行つた。我が儘の言ひ放題を言ひ、田舎で許す限りの贅沢の仕放題をして――。 その時私は病気で寝て居た。左の膝の関節が痛み、筋が突張つて足が伸びず、歩行も出来ないほどだつた。私は五日か七日隔き位に父に
加能作次郎
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