北原白秋 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
25. . 10. 午後三時過ぎ、 薄黄水仙の浅葱の新芽枯れたる芝生のなかに仕切られたる円形或は長方形の花壇のなかに二寸ばかり萌えいづ。その幾何学的なる配列のつつましさよ、風微かにかよふ。 水噴かぬ錆びたる噴水の露盤より静かに滴る水滴。 温室前の厚葉シユロランの高きそよぎ。キミガヨランの長きしだり葉に日は光り、南洋土人の頭飾の如くにうち動ぐ。 植物園事務室より出で来りし、若き紳士の紺の背広に赤皮の靴のやはらかなる、薄黄水仙のほとりをぞゆく。 異国の人来る。男は萌黄のソフトをかぶり、女は褪紅の外套を着け、その後より鮮紅の帽かむりし二人の男女の小児爽やかに走りゆく。転づるは French か、角ぐみそめし桜の二列の並木の間の人道を、枯草の辺りを青くして低きかなめ垣の長き径に添ひて、ハリエニシダの花黄なる彼方へとぞゆく。日は黄にして軟かく、冷めたけれども快よき春の風吹く。 とある枯れたる芝生の隅に整はぬ円形を作りあまたの迎春花の小さくして色黄なる花葉もなき枯枝に咲けり。高さは人の足もとにうち見らる。 砂敷ける径のほとり沈丁の花冷めたき風に甘く鋭し。 少年二人カンスを手にさげて静心なく歩みゆく
北原白秋
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