木村荘八 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
永井さん(荷風子)が「日和下駄」の中の一節に路地について記された件りがある。 「……両国の広小路に沿うて石を敷いた小路には小間物屋、袋物屋、煎餅屋など種々なる小売店の賑はふ有様、正しく屋根のない勧工場の廊下と見られる。横山町辺のとある路地の中には矢張り立派に石を敷詰めた両側ともに長門筒袋物また筆なぞ製してゐる問屋ばかりが続いてゐるので、路地一帯が倉庫のやうに思はれる処があつた。」 「……路地はいかに精密なる東京市の地図にも、決して明らかには描き出されてゐない。どこから這入つて何処へ抜けられるか、あるひは何処へも抜けられず行止りになつてゐるものか否か、それはけだしその路地に住んで始めて判然するので、一度や二度通り抜けた位では容易に判明すべきものではない。」 「……路地は即ち飽くまで平民の間にのみ存在し了解されてゐるのである。犬や猫が垣の破れや塀の隙間を見出して自然とその種属ばかりに限られた通路を作ると同じやうに、表通りに門戸を張ることの出来ぬ平民は大道と大道との間に自ら彼等の棲息に適当した路地を作つたのだ。路地は公然市政によつて経営されたものではない。都市の面目、体裁、品格とは全然関係な
木村荘八
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