堺利彦 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
赤旗事件の回顧 堺利彦 回顧すれば、すでにほとんど二〇年の昔である。何かそれについて書けと言われる。今さらながら自分の老いを感ぜざるをえない。昔語りは気恥ずかしくもある。しかし、それも一興として、あるいは多少の参考として、読んでくれる人も無いではあるまい。しばらく昔の夢に遊んでみる。 神田錦町の錦輝館(きんきかん)の二階の広間、正面の舞台には伊藤痴遊君が着席して、明智光秀の本能寺襲撃か何かの講演をやってる。それに聞きほれたり、拍手したり、喝采したり、まぜかえしたり、あるいは身につまされた感激の掛け声を送ったりしている者が、婦人や子供をまじえて五、六十人、それが当時の社会主義運動の常連であった。 この集会は、山口孤剣(やまぐちこけん・義三)君の出獄歓迎会であった。当時の社会主義運動には「分派」の争いが激しく、憎悪、反感、罵詈、嘲笑、批難、攻撃が、ずいぶんきたならしく両派の間に交換されていた。しかし山口君は、その前年皆が大合同で日刊平民新聞をやっていたころから、いくばくも立たないうちに入獄したので、この憎悪、反感の的からはずれていた。そこで彼の出獄を歓迎する集会には、両派の代表者らしい者が
堺利彦
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