坂口安吾 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
昔、池袋にすんでいたころ、小学校の生徒に頻りに敬礼されて、その界隈を遠廻りに敬遠して歩かねばならなくなったが、僕に似た先生がいたに相違ない。 戦争中、神田の創元社へよく遊びにでかけたが、日大生に時々敬礼された。何先生が僕に似ているのか気にかかった。 まだ焼けて幾日にもならぬ高田馬場駅で、夜であったが、軍服の青年(将校らしい)に挨拶され、第二高等学院の何々先生ではありませんか、とこれは明らかに名前を言われたのだが、忘れてしまった。間違われて挨拶を受けるのはキマリの悪いもので、蒲田の易者は僕が手をだすと、 「旦那からかっちゃアいけませんや」という。本職の名人と思ってるのか、蒲田の顔役に似た旦那がいるのかも知れぬ。 井伏鱒二村長がキイキイ声で、 「ヤイ安吾、貴様、けしからんぞ」 「なぜ」 「銀座を歩いていたろう。ヤイ、安吾、僕がうしろから背中をたたいたら、新田潤じゃそうじゃないか。恥をかいた。よく似とる。けしからんぞ、こら」 後日浅草のお好み焼き屋で新田潤にはじめて会ったが、似ているものか。 中村地平と僕が一緒に歩くと、どちらが兄さんですか、ときかれたことが二三度あったが、似ていると直覚する
坂口安吾
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