坂口安吾 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
男女の交際について 坂口安吾 近ごろの世道人心が堕落タイハイしているとか道義が地におちたとか慨嘆するのは当らない。 昔の平和の時代に比較して人の心だけを言うのが間違いで、このインフレ時代であり、住宅難、動物的雑居生活、停電、食糧難、物資難、交通難、おまけにそこに住む青年たちは戦場へ追いやられて心ならずも人殺しを稼業にしてきた人々であり、他の人々は空襲火災に追いまくられて家財や肉親を失ったような人々である。これだけの条件の下でこれだけの秩序が保てれば見上げたもので、日本人のたのもしさ、力強さに気づくことを知らないようでは、その人の方が暗愚であり、つまり敗戦と共に亡びて然るべき誤れる憂国者、誤れる道徳家、唯我独尊的愛国自認者であるにすぎない。 私はむしろこの悪条件の下で、却って秩序が保たれすぎるのじゃないかと思って、不安になることが多い。 戦争と云えば戦争、民主々義と云えば民主々義、万事お上にまかせてクルリと変るばかりで、犬のように従順であるというだけ、その軽薄な気質が現下の秩序のもとで、そしてそういう人々に限ってやたらに道義とかなんとか他人のお行儀のことばかり気にかける。つまり自分がない
坂口安吾
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