澤西祐典 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
淹れたての番茶を一口すすって、真由美は何気なくリビングの窓に目をやった。大きな窓からは、琵琶湖が一望できた。 あっ、来る。窓に貼りついた水滴の向こうに広がる湖の色を見て、そう直感した。 朝から小雨続きだった。天気予報によると、午後も曇天らしかった。しかし空は天気予報を裏切って、雲の薄い部分から晴れ間を覗かせている。なにより水の色が澄んで、淡く輝いていた。 真由美はあわててカーキ色のレインコートを羽織り、その上からライフジャケットを身につけると、玄関脇に置いてあった木箱を抱えて、家の裏手にある船着き場に向かった。以前は手こぎボートに乗っていたが、ここ数年はモーターボートを使っている。雨よけのシートを外し、慣れた手つきでエンジンを吹かす。小気味よい音をあげて、舟が岸を離れたところで、湖の上に虹がかかった。 「虹が出たら、その根元に向かえ」 県内の小学生が集まって、湖上で一泊二日の研修をする「うみのこ」学習で、真由美はそう教わった。「大切なことだからきっと覚えておくように」と念を押された。しかし、今になってみると、先生は噂が広まりすぎないよう、皆がはしゃぎ疲れてうとうとしている時を見計らって
澤西祐典
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