澤西祐典 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「貴様は別府のこと、何もわかっちょらんな。これやからよそ者は好かんちゃ、偉そうにしくさってから」 首藤は、大分合同新聞の夕刊に、太田の写真入り記事を見つけ、彼から言われた言葉を思い出した。途端、頬に熱が上った。新聞を乱暴に丸め、ごみ箱に投げ捨てる。大阪行きのフェリーの船内には、陽気な音楽が流れていた。 ――どうしてこんなことになってしまったのだろうか。 たしかに家業の薬屋は、ずいぶん前から立ち行かなくなっていた。けれど、まさか別府を去ることになろうとは、首藤は夢にも思わなかった。 大阪に着いたら、仕事の合間に覚えた八卦占いでもやって、しばらく気ままに暮らすのも悪くない。そんな風に努めて明るく考えてみたが、やはり、やる瀬ない思いが、首藤の胸に込み上げてきた。その上、生まれも育ちも別府だというのに、「よそ者」扱いされたのもやはり面白くなかった。 まとまりもなくそんなことを思っていると、船内の音楽が途切れ、船内放送が流れた。どうやら出航に際して、テープ投げのイベントが行われるらしい。夕風にでも当たれば気分も変わるに違いないと思い、首藤は船内アナウンスに促されるまま、甲板へと足を運ぶことにした
澤西祐典
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