下村千秋 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
頭は少々馬鹿でも、腕っぷしさえ強ければ人の頭に立っていばっていられるような昔の時代であった。常陸の八溝山という高い山の麓の村に勘太郎という男がいた。今年十八歳であったが、頭が非常によくって、寺子屋で教わる読み書きそろばんはいつも一番であった。何を考えても何をしても人よりずばぬけていた。しかしその時代にいちばん必要な腕っぷしの力がなかった。体は小さく腕や脚はひょろひょろしていて、自分より五つも六つも年下の子供とすもうを取っても、たわいもなく投げ飛ばされてしまった。 だから勘太郎は人前に出るといつも小さくなっていなければならなかった。勘太郎から見れば馬鹿としか思われない男が、ただ腕力があるばかりに勘太郎をいいように引きまわしていた。勘太郎はそれを腹の中でずいぶんくやしがりながらも、どうすることも出来なかった。 勘太郎の村から十丁ばかり離れた所に光明寺という寺があった。山を少し登りかけた深い杉森の中にあって、真夏の日中でもそこは薄寒いほど暗くしんとしていた。この寺には年寄った住職と小坊主一人が住んでいたが、住職はついに死んでしまい、小坊主はそんなところに一人では住んでいられないと言って、村へ
下村千秋
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