鈴木三重吉 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
おくみが厄介になつてゐるカッフェーは、おかみさんが素人の女手でやつてゐられる小さい店だけれど、あたりにかういふものがないので、ちよい/\出前もあるし、お客さまもぼつ/\来て下さるので、人目にはかなりにやつて行けるらしく見えたが、中へ這入つて見ればいろ/\あれがあつて、おかみさんは、月末になると、よく浮かない顔をして、ペンと帳面を手に持つたまゝ、茫やりと一つところを見つめてゐられるやうなことがあつた。 おくみは自分がいつまでもぶら/\とこゝにかゝりものになつてゐるのが済まないやうな気がして、いつも自分で先へ/\と用事を求めて働くやうにしてゐるのだけれど、料理場の男と店の方を受持つてゐるてきぱきしたお安さんともう一人の女中との外に、下を働く下女が一人、出前持の小僧が一人ゐて、それへおかみさんも出来るだけは立ち働いてゐられるので、おくみはたゞ十になられるあき子さんと小さい男のお子さんの面倒を見るのと、一寸したお針なぞをしたりする外には、これとてすることもなかつた。 「おくみさん、もうお寝みなさいな。十二時よ。私もそろ/\目をつぶりかけるわ。」 夜分なぞ、おくみはもうするだけの事はして了つて、

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