相馬御風 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
今年は雪が珍らしく少なかつたので、二月末からもうヂカに土を踏んで歩くことが出來、三月になつてから東京で雪が積つたといふやうなことを新聞で讀んで、何だか東京の方が反對に雪國になつたのではないか、といふやうな氣がした位である。それほどこのあたりは春の訪れが早かつた。 燕の來たのは例年より十日早かつたといはれ、櫻の咲いたのも四月十日頃といふ早さであつた。そして折からの生暖かい南風に、僅か三四日で散つてしまひ、四月下旬にはもうすつかり葉櫻になつてしまつた。梅櫻桃李一時に開くといふのが例年このあたりの盛春のさまであるが、今年はさうは行かず、次々時をたがへて咲いた。全く珍らしい春であつた。 今私が坐つてゐる南向きの二階の窓から遙かに見える高い山々はまだ眞白であるが、目下の庭にはもう山吹が咲き、みづ/\しい色の楓の若葉が風にゆらいでゐる。さゝやかな築山ながら、そこには岩間にほの白くいかり草の花がゆら/\ゆれて居り、擬寶珠の廣葉が日に光つてゐる。 時々キリ/\/\といふ川原ひわの啼聲が空を通つて行く。濱の畑の菜種はまだ花盛りで彼等の最も好きな實を結ぶには間があると思ふが、氣早な彼等ではある。つひ五六日
相馬御風
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