寺田寅彦 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
力学というのは物体に作用する力の釣り合いや力の作用によって起る物体の運動を数学的に論ずる六かしい学問である。天地万有が活きて動いて変化している間はこの力学の応用はあらゆる学術技芸に一日も欠く事は出来ぬ。相撲は人間の体力の活技で、一方から見れば霊妙な複雑な器械の戦いである、いずれにしても運用する力はいわゆる器械力で、力の作用する目的物は質量を有する物体だから、やはり相撲も力学の広い縄張の中へ入れても好かろうと思う。人体諸機関の活動を支配する脳神経の作用は別として、人間の五体殊に手足のごときものを力学的に見ればただ複雑な槓杆の組み合せだと云うことも出来る。槓杆の効用は人の知る通り、昔の力学者が「適当な支点を与えてくれれば地球もころがして見せる」と威張ったのは槓杆の効能を極端に云ったものである、だから適当な槓杆と支点を与えれば虻の力で大象も動く、美人の繊手で横綱も釣上げられる。しかし四本柱の中で使用を許されているのは人間が生来持参の槓杆ばかりであるから槓杆に制限があって破天荒の芸は出来ぬが、有りだけの力を出来るだけ有効に使って強敵を倒そうという場合にはつまり槓杆の原理が役に立って来る。されば
寺田寅彦
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