寺田寅彦 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
二科展院展急行瞥見記 寺田寅彦 九月三日は朝方荒い雨が降った、やがて止んだが重苦しい蒸暑さがじりじりと襲って来た。仕事をしていると『中央美術』から電話が掛かって今日が二科会展覧会の招待日であることを想い出させられた。数年前まではこの日を指折り数えて楽しみにしていたのが、近年どうしたわけか、急に興味が減退した。今年はとうとう肝心の日をすっかり忘れてしまっていたのである。甚だ申訳ない次第である。これは一つには自分がだんだん年を取ってすべてのものに対する感興の強度を減らしたためもあるかもしれないが、一つにはまた実際に近頃の二科会の絵の傾向が自分の好みに背馳して来たように思われたためもある。昨年の会など、見ているうちに何だか少しむっとするような気がして来てとうとう碌に見ないで帰って来て、それきりもう二度とは入場しなかったくらいである。勿論これは二科会の責任ではなくてただ自分という一人の人間の勝手な気持によるものである。しかし今年は「回顧陳列」というのがあるというので、これだけはぜひ見たいと思っていたものを、それすら当日の朝は綺麗に忘れてしまっていたのである。これは耄碌と云われても仕方がない。
寺田寅彦
翻訳状況
待機中ログイン後に翻訳をリクエストできます。
よくある質問
Yes — completely free. This book is in the public domain, so Pagera offers the full text without payment or account requirement. Pagera is funded by advertising.
無料でご利用いただけます
会員登録なしですぐに読み始められます。さらに多くの書籍と機能は無料会員登録後にご利用いただけます。