徳田秋声 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
佗しい放浪の旅 徳田秋聲 別府も私の行つた時分は、創始時代とでもいふのであつたらう。居るあひだに不老泉といふ階上階下の浴槽開きのお祝ひなどあつた事を覚えてゐるが、今は全然趣きが変つてゐるらしい。多分日露戦争以後どんどん開けたのだと思はれる。だから私が行つた時分葭簾張や菰囲ひであつたやうな湯までが、今は立派な浴湯になつてゐるに違ひない。何しろ全市到る処湯の沸かないところはないくらゐで、普通の人家にも庭に浴槽があり、田圃道を歩いてゐると思はぬところに清澄な温泉が煙を立ててゐたりする。この町につづいた浜脇といふところには又砂風呂といふのがあつて、囲ひの枠に頭と足をもたせて、砂のなかに体を半分埋めてゐると、下から湯が噴き出して来る。広大なその種類の浴場が幾個もあつた。湯の豊富なことは恐らく世界一で、更に町を離れて大きな石塊の磊磊してゐる野を突切つて観音寺へ行つて見ると、そこは大友宗麟(?)の居城の跡とかで見晴らしのいい高台に温泉が湧いてをり、そこから奥へ入つて行つて、かんなわの湯だとか明礬の湯だとか半里か一里ごとに色々な温泉が噴出してゐる。海法師海地獄などへも、私は観音寺で出来た連と一緒の乗物
徳田秋声
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