外村繁 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
浅黄色の色硝子を張ったような空の色だった。散り雲一つない、ほとんど濃淡さえもない、青一色の透明さで、かえって何か信じられないような美しさである。例えば、ちょっと石を投げる、というような些細な出来事で、一瞬どんな変化が起るかも知れない、と危ぶまれるような美しさだった。そのとき、私には大空を落下する無数の青い破片を想像することもできた。 しかも、そんな美しさは、時も、空間も、失なわれてしまったような静かさの中にあった。それがかえって私を、不意に激しい不安に陥れたのかもしれない。 妻は隣室で眠り続けている。そう思ったとき、やっと時計の音が、私の耳に返って来た。 時計の音というものは奇妙なものである。小忙しく、いかにも、刻刻と、時の経って行くのを告げ知らせるかのようである。「そらそら」とね。しかも私達はその音をどんなに聞くまいと思ってみても無駄である。聞くまいとすればするほど、その連続音は執拗に耳もとに鳴り響く。しかし、いつかその音は消えてしまう。というよりは、ふと、再びその音に気づいたとき、今までのその音の無い数刻を何か空しく思い返すのである。不思議なことには、そういうとき聞く、時計の音とい
外村繁
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