富永太郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
溝ぷちの水たまりをへらへらと泳ぐ高貴な魂がある。かれの上、梅雨晴れの輝かしい街衢の高みを過ぎ行くものは、脂粉の顔、誇りかな香りを放つ髪、新鮮な麦藁帽子、気軽に光るネクタイピン……この魂にとつて、一日も眺めるのを欠くべからざる物らの世界である。さて、かれは、これらの物象の漸層の最下底に身を落してゐる。軽装の青年紳士の、黒檀のステツキの石突と均しく位してゐる。しかも、かれは、この低みから、すべての部分がかれの上に在るあの世界をみおろすことのできる、不思議な妖術を学び得た魂である――この屈従的な魂は。 ●図書カード
富永太郎
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