中谷宇吉郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
前から私は、妙な夢を一つもっている。それは『人類の歴史』という映画を作ってみたいというのである。甚だ唐突な話で、そんなことをいっても、何のことか全然見当がつかないかもしれないが、本人はかなりまじめなつもりなのである。 『人類の歴史』などというと、昔帝劇で十円の入場料をとって見せた『イントレランス』を連想されるかたがあるかもしれない。旧い話で、活動写真館といえば、二十銭くらいの入場料が相場だった頃のことで、この十円は大いに世人の度胆を抜いたものである。 内容はすっかり忘れたが、なんでも古代、中世、現代と、三つの話の三部作になっていた。そして寛容の心のないことが、人類の悲劇の源であり、それは文明が進歩しても変らないというようなことを、テーマにしたものであった。今から考えてみれば、他愛のないものであるが、古代のところで、何千人という武装兵士が出てくるというのが、呼びものになっていた。たしかトロイの陥落だったかと思うが、当時としては初めての大スペクタクル映画で、大いに評判になったものである。それに、文明が進歩しても、人間は変らないというようなさわりが、当時の文学青年たちにはちょうど手頃であった
中谷宇吉郎
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