中谷宇吉郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
支那の古い時代の青墨の色に、興味をもったのは、高等学校の学生時代である。 四高へ通っていたころ、中村浩さんという日本画家と知り合いになった。油絵から転向した人で、色にはきわめて敏感であった。支那の名墨の墨色図鑑を自分でつくって、秘蔵していた。旧家やこっとう屋を回って、ちょっと磨らせてもらって、その墨色を収集したものである。 それ以来、興味はもっていたが、名墨の物理的研究までは、さすがに手が出なかった。しかし戦後になって、度胸をきめて、少し手がけてみた。電子顕微鏡だの、X線だのを使って調べてみて、やっと少しわかった。名墨といわれるものは、粒子が円く、全体として半ば結晶質になっているのである。 初めは墨色の研究のつもりだったが、だんだん嵩じてきて、とうとう一昨年は、墨絵の展覧会までやった。私の墨絵の高弟で、出藍の誉れ高い、岩波の小林勇君との二人展である。 小林君は、高弟というと腹を立てるが、これは警視庁ご証明づきであるから、仕方がない。そのてんまつには、ここではふれる暇がない。 それ以来、二人ともますます熱が上がってきた。小林君は、そのうちに、今の仕事を止めて、画家として立ちたい希望のよう
中谷宇吉郎
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