中谷宇吉郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
孔子とか論語とかいえば、われわれの若い時代に、すでにそれは、時代おくれの標本になっていた。老人たちに何かお説教をされると「子曰くか」と言って逃げたものである。いわんやこのごろの青年諸君のなかには、論語などと聞いても、名前も知らない人が多いであろう。 論語は、高等学校時代に、修身の課目として、講義をきいたことがあるが、馬鹿にしきっていたので、その内容はすっかり忘れてしまった。何でも身を修め、家をととのえ、それから朋友を何とかして、ついに天下を治めるという話があったような記憶がある程度である。 言葉の方は、少しちがっているであろうが、処世訓として、まず手近なところからはじめて、次第に広い範囲に及ぼすという考え方が、その根本にあったことは、間違いないように思われる。 そういう見方でみると、二千年以上も昔の孔子の教えが、今日の世界の中で、最もそれに近いかたちで実行されているのは、アメリカではないかという気がする。アメリカといえば、物質の国、アメリカ人といえば、実用一点ばりの人間、というふうに、普通は考えられがちである。たしかにそういう面もあるが、しかし、別の見方をすれば、非常に具体的にものごと
中谷宇吉郎
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