中谷宇吉郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
私は昨年の秋から少し静養の意味で、伊豆のI温泉に仮りの住居を定めることにした。今まで北国の生活ばかりしていた私達には、初めて見る南国の冬が色々珍しい経験を沢山齎してくれた。高畑の蜜柑畠に日が映えて、雑木林が紫色に光るのも珍しかったし、冬の海に陽光が燦々と降っている景色も愉しかった。何だか周囲が天恵で満ち満ちているような気がして、半年を灰色の空の下で雪に埋れながら暮す人達の生活が遠い国のことのように思い浮べられた。 それらの天恵の中でも、この伊豆海岸の生活で自分に一番嬉しいことは、いつも鮮しい魚が得られしかもその種類が極めて多いということであった。この町は温泉地として有名であるにもかかわらず、実は今でも町全体の収入を見ると、温泉地としてよりも漁港としての方が多いという話である。それだけに町の姿にも全くの温泉街とは成り切れぬ処があって、微かに残っているその漁村の匂いが、落付いて住もうとする私達に何となく暮しやすいという感じを与えてくれるのであった。 私がここにしばらく滞在しようとした時に、医師の人から新鮮な魚を沢山喰べるようにと勧められた。もともと私は子供の時から北国の荒海近い田舎に育って
中谷宇吉郎
翻訳状況
待機中ログイン後に翻訳をリクエストできます。
よくある質問
Yes — completely free. This book is in the public domain, so Pagera offers the full text without payment or account requirement. Pagera is funded by advertising.
無料でご利用いただけます
会員登録なしですぐに読み始められます。さらに多くの書籍と機能は無料会員登録後にご利用いただけます。