中谷宇吉郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
福岡県浮羽郡の浮羽町に、大生寺という臨済宗の古刹がある。そこの方丈芝原行戒師とは、前から知り合いだったので、さる六月の北九州旅行で、二晩ご厄介になった。 寺は山腹にあって、筑後平野を一望に見渡し、緑蔭清風の申し分ない環境であった。境内の結構にも、京洛の古寺の面影があり、庭石にも石壇にも、美しい苔がついていて、水が非常に綺麗であった。九州にもこういう寺があるかと、驚いたくらいであった。 私は非常に落着いた気分で、二夜を過ごしたが、その間行戒師と、柄になく、支那古代の神仙道と禅宗との関係について、話し合う機会を得て、大いに啓発されるところがあった。 一時露伴の『仙書参同契』に凝って、その解説『古代東洋への郷愁』を、三月がかりで書いたくらい熱をあげたことがある。その時、神仙道のうち、その本宗たる丹道の奥義が、禅宗のそれと、非常によく似ているのに、大いに驚いた。 支那古代のいわゆる神仙道は、内容が非常に多岐にわたっていて、大部分は、神変怪異を説く原始宗教であった。もっともその起りは非常に古く、春秋まで遡ることができる。日本でいえば、もちろん有史以前である。 この古代神仙道時代は、七百年ばかり続
中谷宇吉郎
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