中谷宇吉郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
四年ばかり前に、K國手の手で、扁桃腺をとって貰ったことがある。年とってから扁桃腺をとるのは、そう樂なものではないが、何といっても日本の第一人者であるから、手術そのものは極めて巧く行った。 しかしあと三日ばかり、ものを飮みこむ時に、ひどく痛くて、全く閉口した。流動物でも、一口飮みこむことが、すでに大變な難事業であった。鯉みたような恰好に、上を向いて口を大きくあけ、生卵を一つ流し込む。そして一二度息をととのえて、度胸をきめて、エッとばかりに飮みこむのである。ちびちび飮んでは、却って痛いからである。 三日目だったか、まだ依然として痛い。そしたらK氏が「あなたはお酒が好きですか」と、妙なことを聞かれる。「ええ、好きですが、今はお酒どころではありません」というと「それならウィスキーを一杯差上げましょう。思い切って、グッと一杯やって、それから食べると少しは樂ですよ」と、まことに意外な話である。思い切って實行してみると、なるほど氣のせいか、少し樂なようである。K氏は「酒精は一種の麻醉藥ですからね」と、ニヤニヤしておられた。 この話も、實はもうすっかり忘れていたのであるが、最近のアメリカの新聞に、これ
中谷宇吉郎
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