中谷宇吉郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
この近年、日本中到るところで、釣が大流行のようである、實際のところ、釣くらい面白いものは、外に一寸あるまい。 この頃、無暗と忙しくて、ゆるゆると魚釣りに時を忘れるというような機會には、滅多に惠まれない。それだけに、子供の頃、北陸の湖の畔に育った私などには、昔の思い出がなつかしまれる。五寸もある鮒を釣り上げて、それが藻にからんだ時の、あの緊張感のようなものは、大人になってからは、もう味わえない。 アメリカにいた頃、住んでいた町のすぐ近くに川があった。其處に簡單なダムが建設され、その上流側に、細長い貯水池が出來ていた。この貯水池は、川なりにゆるやかに曲っていて、兩岸には、森林が水面におおいかぶさるように繁っていた。こういうところには、たいてい保存林があって、野生の林をそのままに保存するようになっている。 夏の間、よくこの貯水池へ鯉釣りに出かけた。研究所の方は、夏時間の四時半、すなわち三時半にはもう引けるので、それから暗くなるまでには、少くも五時間はある。自動車なら十分とかからないところなので、よく夕食をもってピクニックがてらに、この貯水池へ出かけた。 緯度が高いので、たそがれは、何時までも
中谷宇吉郎
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