中谷宇吉郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
長岡先生と寺田先生とは、学問のやり方でも、対世間的のすべての点でも、まるで正反対のように、一般に思われている。事実、外から見たところは、その世評のとおりである。そして外から見たいわゆる皮相の観が、案外ことがらの真をついていることが多い。両先生の仲は、決して良かったとはいえない。 しかし両先生とも、何といっても、大正昭和の日本における傑出した学者であった。お互いに尊敬すべき点は、ちゃんと尊敬し合っていられた。寺田先生は、あのとおり、どんなつまらない人間でも、その長所は十分に認めるという性質であった。いわんや長岡先生のような卓越した大先生の学問には、十分の敬意を払われた。そして長岡先生のあの性格の強さを、武士道の名残りとして大いに尊重しておられた。 一方長岡先生は、滅多に人に負けない方であったが、やはり見るべきところは、ちゃんと見ておられた。その一つの現われであるが、寺田先生には、ある点では、一目置いているという風があった。寺田先生が大学を出られて、まだそう長くない頃のことである。水産講習所の兼任講師に寺田先生を推薦されたことがあった。その時長岡先生が「絹ハンカチで鼻をかむようなものだが」
中谷宇吉郎
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