中谷宇吉郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
いよいよ世紀の日食が近づいて、この半月ばかりというものは、札幌の街は日食で大分賑かであった。新聞では日米科学戦というような言葉が盛に使われ、街では講演会や放送がたびたび行われた。 この頃急に忙しくなった私は、とても日食どころの騒ぎではなかった。しかし都会に住んでいて、居ながらに皆既食が見られるようなことは滅多に無いし、それに今度の機会を逃がすと、もう一生見られないかもしれないと思うと、何とかしてお天気になってくれればよいと皆で願った。 しかし北海道の二月の朝八時に、日食観測に適する晴天を望むことは、甚だ無理な注文である。果して二、三日前から、弱い不連続線が北海道の西北部にかかって、札幌はかなりたくさんの雪の降る日が続いた。やはり駄目かなと思っているうちに、不思議と前日あたりから天気が好転してきた。そして夕方には久しぶりで、太陽が眩く輝きだした。「あすはお月さまにかくされることも知らないで、お日さまは煌々と照っていますね」と家人や子供たちは大はしゃぎであった。 五時半頃から子供たちに騒がれて、やれやれ厄介な日食だと思いながら起き出てみると、東の全半天が青磁色に晴れわたっている。急に元気が
中谷宇吉郎
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