中谷宇吉郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
アメリカの脊骨をなしている中堅階級は、案外に健全な生活をしている。しかしそれは何も、そういう連中が皆朴念仁であるという意味ではない。皆結構生活を楽しんでいるのであるが、その楽しみ方が甚だ利口なのである。その話について、まず正月向きに、少し柔らかいところから始めよう。それはアメリカにも芸者がいるという話である。 たいていの日本の奥さん方は、「アメリカには芸者がいない」という話をきいて、たいへん羨ましい国だと思っておられるらしい。しかしそれは間違いであって、アメリカにも、ちゃんと芸者はいるのである。もっとも、鑑札をもったそういう連中はいないが、もっとれっきとした同業の女性が、沢山いるのである。それは良家の奥さんたち御自身である。 考えてみれば当然な話で、アメリカだって、野郎ばかり十人も集まって、一晩話をしていたら、どうしてもあたりが殺風景になる。綺麗な着物を着た女性が、少しちらちらしていてくれた方が、気分がなごんで来るところであるが、女権が強くて、人件費の高いアメリカでは、日本の芸者のような職業は生まれて来ない。それで普通は、奥さん方が、その役をつとめるわけである。野郎ばかりで酒を飲む場合
中谷宇吉郎
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