中谷宇吉郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
昭和二十六年の秋は、電力の危機が全国的に叫ばれ、その中でも関西地方の電力危機は、文字通りの危機であったらしい。大阪附近の工場がとくにひどくて、電力不足のために工場が休む、その生産低下による損害のために、中小企業家は倒産に瀕したと騒がれていた。 その理由は昨年の夏から秋にかけて台風がこなかったために、水が不足になり、そのために生じた電力危機であるといわれている。日本も戦争の末頃から、まことに哀れな国になったものである。台風が来れば大洪水が全国的に起きて、洪水だけでも日本は滅びるというような大騒ぎになる。たまたま昭和二十六年のように、台風がこない年には、今度は電力の危機がやって来る。こうなると台風が来ていいのか、来て悪いのか、全く戸惑いする状態になってしまった。 しかし日本の電力危機は、何も今日に始まった話ではない。もう二、三年前から、少しでも日本の電力事情について知識を持っている人たちは皆、十分に承知していたことである。そういう人たちは、たびたび警告を発してきていたはずであるが、その人たちの言葉は最近まで全く一笑に付せられてきた。それはその前年も、前々年も、即ち昭和二十五年も四年も、電力
中谷宇吉郎
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