中谷宇吉郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
人間の履歴を知るには、履歴書を見るのが一番早い。しかし履歴書にあらわれているのは、決してその人の本当の履歴ではない。少なくも私の場合などは、大学の物理科を出ていることになっていて、それは事実ではあるが、今から考えてみると、全く偶然の機会の重り合いが、自分を物理学者としたようなものである。私の歩んだ道は、履歴書の上ではきわめて平凡であるが、その内容はきわめて浮動の多いものであった。ただ全体を通じて、今までのところは、非常に運のよい道を通ってきたものと、自分では思っている。ちょいちょい困ったこともあったが、あとから考えてみると、その苦境がかえって幸運への橋渡しになったことが多い。 一番感謝していることは、生まれた家が、非常に貧乏でもなく、また決して金持でもなかった点である。あまり貧乏で中学へも出せないようでは、もちろん困るが、家が金持であることは、決して子供のために仕合せだとは限らない。無理をすれば、ようやく大学まで何とかやれるというくらいの家庭が、一番幸福な家庭であり、私の家はまさにその階級に属していた。 北陸の片田舎で育ったことも、非常によいことだったと思っている。日本は、田舎と都会と
中谷宇吉郎
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