夏目漱石 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
『傳説の時代』序 夏目漱石 私はあなたが家事の暇を偸んで『傳説の時代』をとう/\仕舞迄譯し上げた忍耐と努力に少からず感服して居ります。書物になつて出ると餘程の頁數になるさうですが嘸骨の折れた事でせう。原書は私の手元にもあるから承知してゐますが、一寸見ると四六版の小形の册子に過ぎませんけれども、活字は細かし、上下は詰つてゐるし、讀むのにさへ隨分の時間は懸ります。況して一行毎に譯して行くとなつたら、それを專業にする男の手でもさう容易くは出來ません。況して夫の世話をしたり子供の面倒を見たり弟の出入に氣を配つたりする間に遣る家庭的な婦人の仕業としては全くの重荷に相違ありません。あなたは前後八ヶ月の日子を費やして思ひ立つた翻譯を成就したと云つて寧ろ其長きに驚ろかれるやうだが、私は却つて其迅速なのに感服したいのです。 出版に就て私の序文が御入用だとの仰は謹んで承りましたが、私はあらゆるミスに就て何事もいふ權利を有たない無學者なのだから少からず困却します。私は希臘の神話に就いて、あそこを少し、こゝを少し、と云つた風にうろ覺えに覺えてはゐますが、系統的には研究もせず、批判もせず、漫然と今日迄經過して來
夏目漱石
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