野上豊一郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
とうとう! ――アクロポリスの西の坂道を車で駈け登りながら思った。――とうとうパルテノンを見る日が来た。紀元前五世紀のペリクレスのアテナイの文化の抜萃といわれるパルテノン、世界に二つとない美の結晶と謳われるパルテノン、簡素で逞ましいドリス様式と優雅ですっきりしたイオニア様式の融合した華麗の典型なるパルテノン、建築家イクティノスとカリクラテスと彫刻家プイディアスの比類なき技術の三部合奏ともいうべきパルテノン。いつかはそれを見たいと、どんなに長い間望んでいたことか! そのパルテノンを見られる時がとうとう来た。しかも、予期していたより、半年も、一年も早く。それだけ喜びも大きかったが、あわて方もまた小さくはなかった。というのは、古代の遺物でも、近代の記念物でも、顕著なものを見る前には、私は必ずできるだけ準備をして貧弱な知識を補うことにしていたのに、その時はアレクサンドリアからナポリへ直行するつもりで乗った船が、偶然にもピレウスに寄港することになったので、拾い物をしたような気でアテナイを訪問はしたものの、準備をする余裕がなかったからである。 坂の上に車を棄てて、大きな石段を拾って登ると、頭の上に
野上豊一郎
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