野村胡堂 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「今晩はまったくすばらしかったよ。愛ちゃんが、あんなにピアノがうまいとは夢にも思わなかったぜ。練習しているのを聴くと、ピアノというものは、うるさい楽器だからな」 「まア、お兄さん、それじゃ褒めているんだか、くさしているんだか、わからないじゃありませんか」 狩屋三郎と妹の愛子は、日比谷音楽堂の帰り、まだおさまらぬ興奮を追って、電車にも乗らずに、番町の住居まで、歩いて帰るところでした。 「でも、演奏はまったく上出来さ、聴衆はみんなびっくりしていたよ。ベートーヴェンのソナタは少しこわいみたいだが、第二部のショパンがよかったんだ。ぼくの近所で聴いていた人たちは、まさかぼくを愛ちゃんの兄とは知らないから、――日本にもこんなに若くて、こんなにうまいピアニストがいたのかなア、多勢の外国人も来ているようだが、こんな芸術家を発見しただけでも、われわれの肩身が広い――と言っていたよ」 「まア」 愛子は少しきまり悪そうでした。妹にお世辞を言うような兄ではありませんが、面と向ってこう言われると、さすがに口がきけなかったのです。 狩屋愛子は十八になったばかり、新鮮で清潔で、ピンク色のコスモスの花のような少女でし
野村胡堂
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