萩原朔太郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
本書を書き出してから、自分は寝食を忘れて兼行し、三カ月にして脱稿した。しかしこの思想をまとめる為には、それよりもずっと永い間、殆ど約十年間を要した。健脳な読者の中には、ずっと昔、自分と室生犀星等が結束した詩の雑誌「感情」の予告に於て、本書の近刊広告が出ていたことを知ってるだろう。実にその頃からして、自分はこの本を書き出したのだ。しかも中途にして思考が蹉跌し、前に進むことができなくなった。なぜならそこには、どうしても認識の解明し得ない、困難の岩が出て来たから。 いかに永い間、自分はこの思考を持てあまし、荷物の重圧に苦しんでいたことだろう。考えれば考える程、書けば書くほど、後から後からと厄介な問題が起ってきた。折角一つの岩を切りぬいても、すぐまた次に、別の新しい岩が出て来て、思考の前進を障害した。すくなくとも過去に於て、自分は二千枚近くの原稿を書き、そして皆中途に棄ててしまった。言いようのない憂鬱が、しばしば絶望のどん底から感じられた。しかも狂犬のように執念深く、自分はこの問題に囓じりついていた。あらゆる瘠我慢の非力をふるって、最後にまで考えぬこうと決心した。そして結局、この書の内容の一部

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