林不忘
林不忘 · 日本語
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林不忘 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
第一話 四谷の菱屋横町に、安政のころ豆店という棟割長屋の一廓があった。近所は寺が多くて、樹に囲まれた町内にはいったいに御小役人が住んでいた。それでも大通りへ出る横町のあたりは小さな店が並んで、夕飯前には風呂敷を抱えた武家の妻女たちが、八百屋や魚屋やそうした店の前に群れていた。 豆店というのは、菱屋横町の裏手の空地にまばらに建てられた三棟の長屋の総称で、夏になると、雑草のなかで近所の折助が相撲をとったり、お正月には子供が凧をあげたりするほか、ふだんはなんとなく淋しい場所だった。柿の木が一、二本、申しわけのように立っていて、それに夕陽があたると、近くの銭湯から拍子木の音が流れて来るといったような、小屋敷町と町家の裏店を一つにした、忘れられたような地点だったが、空地はかなり広かったから、そのなかの三軒の長屋は、遠くからは、まるで海に浮んだ舟のように見えた。それで豆をちらばしたようだともいうところから、豆店の名が出たのだろうが、住んでいる連中というのがまた法界坊や、飴売りや、唐傘の骨をけずる浪人や、とにかく一風変った人たちばかりだったので、豆店はいっそう特別な眼で町内から見られていた。 が、な
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