宮本百合子 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
愛 宮本百合子 愛ということばは、いつから人間の社会に発生したものでしょう。愛という言葉をもつようになった時期に、人類はともかく一つの飛躍をとげたと思います。なぜなら、人間のほかの生きものは、愛の感覚によって行動しても、愛という言葉の表象によってまとめられた愛の観念はもっていませんから。 更に、その愛という言葉が、人間同士の思いちがいや、だましあいの媒介物となったのは、いつの頃からでしょう。そして、愛という字が近代の偽善と自己欺瞞のシムボルのようになったのはいつの時代からでしょうか。三文文士がこの字で幼稚な読者をごまかし、説教壇からこの字を叫んで戦争を煽動し、最も軽薄な愛人たちが、彼等のさまざまなモメントに、愛を囁いて、一人一人男や女をだましています。 愛という字は、こんなきたならしい扱いをうけていていいでしょうか。 愛という言葉をもったとき、人間の悲劇ははじまりました。人類愛という声がやかましく叫ばれるときほど、飢えや寒さや人情の刻薄がひどく、階級の対立は鋭く、非条理は横行します。 わたしは、愛を愛します。ですから、このドロドロのなかに溺れている人間の愛をすくい出したいと思います。
宮本百合子
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