宮本百合子 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
写真 宮本百合子 長さ三尺に高さ二尺六七寸の窓がある。そこには外から室内は見えるが、内部から廊下の方はよく見ることの出来ないような角度で日除け板簾のような具合に板がこまかく張られている。一通の手紙がその板のすき間から投げこまれ、下に畳み重ねてある夜具の上に落ちた。私は本を読んで熱中していたのだが背後のその気勢は素早く感じ、振向いて立ち、二足ばかりで夜具のところに達した。手紙は一人の友達からであった。箱根の山へピクニックしたことも書いてあり、山の上に憩ありというゲーテの詩など感想にふくめて書かれているのだが、ここに封入しました、という十国峠の写真は入っていなかった。封筒の表を改めて見直したら、写真一葉領置と書きこんである。私は合図をして手紙が投げこまれたと同じ窓越しに話をしはじめた。 「今の手紙に、写真が領置になっているらしいんですが、其を下げるにはどういう手続きをとったらいいのでしょうか」 「明日の朝、教誨師さんに特別面会を願ってよくお願いして其から下げて貰うんですよ」 私には写真のあらましも想像のつくことであったし、そういう特殊な役目のひとにはそれまで厄介になっていず、そういうことま
宮本百合子
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