宮本百合子 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
諸物転身の抄 宮本百合子 これまで、今時分の東京の乾物屋の店先にこんなに種々様々にあしらわれて鰊が並んだことがあっただろうか。 身がきにしんの束がそこにあるわきで、小僧と娘さんとが、その身がきにしんにドロリとした黒いたれをつけて焼いている。その匂いは細雨の降る夕暮の歩道に立ちこめているが、同じ店先には鰊一尾まるのまま糠づけにしたものも売っている。 今年はどうも鰊が目につくと思っていたら、北海道の或る町から人が泊りに来て、その話ではあっちに今年は鰊がないのだそうだ。加工してどんどん内地さよこすですて、とそのお婆さんは話した。北海道のおばあさんは、市場の乾物屋から糠づけ鰊を買って来て、器用にその頭をおとし、かずの子を別にとり出し、焼いて私にもたべさせてくれた。辛いけれども、美味しく思った。 三陸では鰯がこれまでどっさりとれて、ぐるりの地方の農村では肥料にことかかなかった。今年はその鰯がとれるはじから末広に姿をかえて行った。夥しい末広鰯が、それは加工されたものだから生のまま、とれたままのものより割のよい価で、よそへ飛ぶように売り出されて行った。三陸の鰯は静岡の茶園へ行って、そこでもう一遍ほぐ

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