宮本百合子 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
新緑 宮本百合子 この頃の新緑の美しさ。私は、毎朝目を醒ますと、先ず庭を観るのが一つの悦びだ。空がよく晴れて、日光がキラキラする梢の鮮かな姿を見るのもたのしいし、又は、今朝のような雨に煙とけ、一層陰翳ふかい緑にしたたる様子を眺めるのも快い。近頃の自然こそ、人間が眠っている暗い夜の間にも巻葉の解かれるサッサッと云う微な戦ぎで天地を充たすようだ。 雨はやんだらしいが、雲は晴れないと見え、硝子窓の外は真暗闇だ。楓の軟かい葉から葉に伝って落ちる点滴の音がやや憂鬱に響いて来る。夜の闇の濃さが、古歌を思い出させた。 五月闇おぼつかなきに郭公 山の奥より鳴きていづなり この歌調には、何か切なものがある。五月闇おぼつかなき山の奥から鳴いて出づる郭公と共に止み難い何ものかの力を同感しているように思われる。作者は傍観せず、鎌倉の山の木立深い五月闇をおかして鳴き出づる郭公の心になっていると感じるのは私の誤りだろうか、実朝は、切な歌を多く遺した。 合本になっている順で、新葉集の歌もちょいちょい目にふれたが、私はすきになれそうな気がしなかった。憤り恨みが表に立ちすぎている――技巧の上の問題などではない。あれ等の

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