Vol. 2May 2026

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小酒井不木氏スケッチ

国枝史郎

「高きに登って羅馬を俯瞰し、巨火に対して竪琴を弾じ、ホーマアを吟じた愛す可き暴王、ネロを日本へ招来し、思想界へ放火させようではないか。五百あまりの白骨が、塁々として現われようぞ。惜しい人間が幾人あろう? 一、二、三……」と指を折る。「あっ、不可ない、十人とは無いや」斯ういうことを心の中で、往々考える傲慢な私も、小酒井不木氏の前へ出ると、穏しい中年の紳士となり

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小酒井不木氏の思い出 ―その丹念な創作態度―

国枝史郎

◇ 小酒井不木さんが逝去された。哀悼にたえない。氏が医学界と探偵小説界に尽くされた功績の数々については、世人は大方知悉していられることと思われる。 ここでは主として氏が日常のことと執筆態度などについて書くことにする。 氏の義理堅さは有名なもので、原稿など依頼を受け、引き受けられるや、枚数期日など極めて正確で殆ど編集者に迷惑をかけたことなどはなかった。いつも編

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「小酒井不木集」はしがき

小酒井不木

私は元来学究の徒でありまして、研究室以外の世の中をあまり見ておりませんですから、私の作品には研究室のにおいが濃厚につきまとっております。けれども、それが一方において私の作品の特色ともなっていると思います。本集には、私の最も力を注いだ探偵小説を集めました。 集中の「少年科学探偵小説」は、少年諸君のために書かれたものでありますけれど、大人の方々にもきっとお気に入

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小さな金色の翼

小川未明

彼らの群れから離れて、一羽の小鳥が空を飛んでいますと、いつしか、ひどい風になってきました。そして、小鳥は、いくら努力をしましても、その風のために吹き飛ばされてしまいました。 空には、雲が乱れていました。方角もわからなくなってしまいました。小鳥は、ただ飛んでゆきさえすれば、そのうちに林が見えるだろう。また、山か、野原に出られるだろうと思っていました。 日はだん

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小鈴

宮本百合子

小鈴 宮本百合子 弟の家内が今年の正月で三十三を迎えた。三十三は女の厄年といわれている。 厄年というものを迷信的に考えはしないけれど、たとえば女の子の十六歳、十九歳などという年齢を、何か意味あるけじめのように見ることは、その年頃の生理やそれにつれて激しく動く感情の波立ちから、全然根拠が無いとも思われない。三十三という年ごろも、女の生涯からみれば、何かそこに配

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小鰺釣

佐藤垢石

小アジ釣は誰にでもやれるのでファンが大分多い。それに沖合遠く漕ぎ出す必要がないから危険も少い訳である。横浜からも鶴見からも毎日乗合船が出て、一日一円五十銭程度であるから費用もかからない。 釣道具も餌も船頭が用意しておいてくれる。釣方も面倒ではない。簡単にやれる。錘は六、七十匁から百二、三十匁までであって両天びんになっている。鈎素の長さは一尋が普通であって小ア

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小鳥

宮本百合子

小鳥 宮本百合子 午後から日がさし、積った白雪と、常磐木、鮮やかな南天の紅い実が美くしく見える。 机に向っていると、隣の部屋から、チクチク、チチと小鳥の囀りが聞えて来る。二三日雪空が続き、真南をねじれて建った家には、余り充分日光が射さなかった。寒さや陰気さで縮んでいた彼等は、久し振りに障子もあけて置ける暖かさでさぞ嬉しいのだろう、雨だれの音、小鳥の声が、入り

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小鳥と兄妹

小川未明

町からはなれて、静かな村に、仲のいい兄妹が住んでいました。 兄を太郎といい、妹を雪子といいました。二人は、毎月、町へくる新しい雑誌を買ってきて、いっしょに読むのをなによりの楽しみとしていました。 ある日のこと、二人は、雑誌を開いて見ていますと、その月のには、美しい花や鳥の写真がたくさんに載っていました。 「まあ、きれいだこと、兄さん、この鳥は、よく見る鳥じゃ

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小鳥の如き我は

宮本百合子

小鳥の如き我は 宮本百合子 枯草のひしめき合うこの高原に次第次第に落ちかかる大火輪のとどろきはまことにおかすべからざるみ力と威厳をもって居る。 燃えにもえ輝きに輝いた大火輪はその威と美とに世のすべてのものをおおいながらしずしずと凱歌を奏しながらこの高原の絶端に向って下る。 山も――川も――野も――、そうして私まで、 世は黄金で包まれた。 雲は紫に赤にみどりに

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ハツカネズミと小鳥と腸づめの話

グリムヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール

むかしむかし、ハツカネズミと小鳥と腸づめがなかまになって、一家をもちました。長いあいだ、みんなはいいぐあいになかよくくらして、財産もだいぶこしらえました。 小鳥のしごとは、まい日森のなかをとびまわって、たきぎをとってくることでした。ハツカネズミは水をくんで、火をおこし、おぜんごしらえをする役めです。それから、腸づめは煮たきをすることになっていたのです。 しあ

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マリヴロンと少女

宮沢賢治

マリヴロンと少女 宮沢賢治 城あとのおおばこの実は結び、赤つめ草の花は枯れて焦茶色になって、畑の粟は刈りとられ、畑のすみから一寸顔を出した野鼠はびっくりしたように又急いで穴の中へひっこむ。 崖やほりには、まばゆい銀のすすきの穂が、いちめん風に波立っている。 その城あとのまん中の、小さな四っ角山の上に、めくらぶどうのやぶがあってその実がすっかり熟している。 ひ

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少女がこなかったら

小川未明

寒い、暗い、晩であります。風の音が、さびしく聞かれました。ちょうど、真夜中ごろでありましょう。 コロ、コロ、といって、あちらの往来をすぎる車の音が、太郎のまくらもとに聞こえてきました。もう、だいぶねあきていましたので、彼はふと目をあけて、その車の音に、耳をすましたのでした。 「いま時分、あんな車を引いてゆくのは、どんな人間だろう?」 こう、彼は考えました。す

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少女と海鬼灯

野口雨情

ある日、みつ子さんがお座敷のお縁側で、お友達の千代子さんと遊んでゐますと、涙ぐんだ小さな声で唄が聞えて来ました。 わたしの お家は 海なのよ わたしの姉さん 母さんは 御無事で お家に 居るでせうか わかれて来てから もう二年 一度もたよりは ないけれど お家に 御無事で 居るでせうか 唄は、ほんたうに哀ツぽい悲しさうな声で又聞えました。 渚の沙さへ 子があ

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少女病

田山花袋

山手線の朝の七時二十分の上り汽車が、代々木の電車停留場の崖下を地響きさせて通るころ、千駄谷の田畝をてくてくと歩いていく男がある。この男の通らぬことはいかな日にもないので、雨の日には泥濘の深い田畝道に古い長靴を引きずっていくし、風の吹く朝には帽子を阿弥陀にかぶって塵埃を避けるようにして通るし、沿道の家々の人は、遠くからその姿を見知って、もうあの人が通ったから、

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少女と老兵士

小川未明

某幼稚園では、こんど陸軍病院へ傷痍軍人たちをおみまいにいくことになりましたので、このあいだから幼い生徒らは、歌のけいこや、バイオリンの練習に余念がなかったのです。きょうも、「父よあなたは、強かった」を、バイオリンを弾くものと、うたうものとで調子を合わせたのでありました。 「よくできました。これでおしまいにしましょうね。あしたは、お国のために、負傷をなさった、

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少年

谷崎潤一郎

もう彼れ此れ二十年ばかりも前になろう。漸く私が十ぐらいで、蠣殻町二丁目の家から水天宮裏の有馬学校へ通って居た時分―――人形町通りの空が霞んで、軒並の商家の紺暖簾にぽか/\と日があたって、取り止めのない夢のような幼心にも何となく春が感じられる陽気な時候の頃であった。 或るうら/\と晴れた日の事、眠くなるような午後の授業が済んで墨だらけの手に算盤を抱えながら学校

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少年

原民喜

少年 原民喜 空地へ幕が張られて、自動車の展覧会があった。誰でも勝手に這入れるので、藤一郎もいい気持で見て歩いた。ピカピカ光るお腹や、澄ました面した自動車を見ると、藤一郎の胸にはふんわりと訳のわからぬ感情が浮き上るのであった。いくら見惚れたって自分の所有にはならないのだが、ああ云ふ立派な自動車に乗って走れたら、どんなに素晴しいだらうか――藤一郎はその素晴しさ

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少年

神西清

私はよく夢をみる。楽しい夢よりも、苦しい――胸ぐるしい夢の方がずつと多い。さめたあとで、ほとんど全経過をたどり直せるほど、はつきり覚えてゐる夢もある。さめた直後は、思ひ出す手がかりすら見失はれて、それなり忘れてゐたのが、かなり後になつて何のきつかけもなしに、ぱつと記憶に照らし出される夢もある。後者には概して楽しい夢が多いやうだ。 同じ主題がしばしば繰り返され

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サーカスの少年

小川未明

輝かしい夏の日のことでありました。少年が、外で遊んでいますと、花で飾られた、柩をのせた自動車が、往来を走ってゆきました。そして、道の上へ、一枝の白い花を落として去ったのです。 これを見つけた子供たちは、方々から、走り寄りましたが、いちばんはやかった少年が、その花を拾ったのでした。なんという花か、わからなかったけれど、それは、香いの高いみごとな花でありました。

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少年たち

チェーホフアントン

「ヴォローヂャが帰ってきた!」と誰かがおもてで叫んだ。 「ヴォローヂャちゃんがおつきになりましたよ!」と、食堂へかけこみながら、ナターリヤが叫んだ。「ああ、よかった!」 かわいいヴォローヂャの帰りを、今か今かと待っていたコロリョーフ家の人びとは、みんなわれがちに窓べへかけよった。車よせのところに、幅の広いそりがとまっている。三頭立ての白い馬からは、こい霧がた

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少年の悲哀

国木田独歩

少年の悲哀 国木田独歩 少年の歓喜が詩であるならば、少年の悲哀もまた詩である。自然の心に宿る歓喜にしてもし歌うべくんば、自然の心にささやく悲哀もまた歌うべきであろう。 ともかく、僕は僕の少年の時の悲哀の一ツを語ってみようと思うのである。(と一人の男が話しだした。) 僕は八つの時から十五の時まで叔父の家で育ったので、そのころ、僕の父母は東京にいられたのである。

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少年の悲哀

国木田独歩

少年の悲哀 國木田獨歩 少年の歡喜が詩であるならば、少年の悲哀も亦た詩である。自然の心に宿る歡喜にして若し歌ふべくんば、自然の心にさゝやく悲哀も亦た歌ふべきであらう。 兎も角、僕は僕の少年の時の悲哀の一ツを語つて見やうと思ふのである。(と一人の男が話しだした。) *     *     * 僕は八歳の時から十五の時まで叔父の家で生育たので、其頃、僕の父母は東

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少年探偵呉田博士と与一

平林初之輔

「お父さん、今日は何か変わったことがあったかい?」 「また、六つになる子供がさらわれちゃったよ。これで去年から三度目だ。お前なんかも用心せんと危ないよ。今日さらわれたのは、お前が行ってる学校の正門の筋向かいの文房具屋の子供なんだよ」 「馬鹿にしていらあ、僕なんかもう中学の三年じゃないか、もう二ヶ月もたったら四年で、来年は高等学校へはいるんじゃないか。だけれど

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