Vol. 2May 2026

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パブリックドメイン世界知識ライブラリ

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復讐・戦争・自殺

北村透谷

復讐・戦争・自殺 北村透谷 復讐 人間の心界に、頭は神にして脚は鬼なる怪物棲めり。之を名けて復讐と云ふ。渠は人間の温血を吸ひて人間の中に生活する無形動物にして、古へより渠が為に身を誤りたるもの、渠によりて志を得たるもの、渠の為に苦しみたるもの、渠の為に喜びたるもの、挙て数ふべからざるなり。 見よ、戯曲は渠を以て上乗の題目とするにあらずや、見よ、世間は渠を以て

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微笑

豊島与志雄

微笑 豊島与志雄 私は遂に女と別れてしまった。一つは周囲の事情が許さなかったのと、一つは私達の心も初めの間ほどの緊張を失ってしまっていたのと、二つの理由から互に相談の上さっぱりと別れてしまった。一切の文通もしないことにした。其後女は、下谷から芳町の方へ住替えたとも風の便りに聞いたが、別に私の好奇心をも唆らなかった。私は何物にも興味を失っていた。長い間のだらけ

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微笑の渦

徳田秋声

K氏を介しての、R大使館からの招待日だつたので、その日彼は袴などつけて、時刻がまだ早かつたところから、I子の下宿へ寄つて一と話してから出かけた。 R大使館の所在を、彼は明白には知らなかつた。勿論招待の意味についても、明確なことはわからなかつた。しかし大凡その見当はわかつてゐた。気のきいた運転士が車をつけたところが、果してそれであつた、彼は門前で車をおりて、右

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徳川氏時代の平民的理想

北村透谷

徳川氏時代の平民的理想 北村透谷 (第一) 焉馬、三馬、源内、一九等の著書を読む時に、われは必らず彼等の中に潜める一種の平民的虚無思想の絃に触るゝ思あり。就中一九の著書「膝栗毛」に対してしかく感ずるなり。戯文戯墨の毒弊は世俗の衆盲を顛堕せしのみかは、作者自身等をも顛堕し去んぬ。然れども其罪は之を独り作者に帰すべきにあらず。当時の時代、豈作者の筆頭を借りて、其

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徳育如何

福沢諭吉

徳育如何 福沢諭吉 『徳育如何』緒言 方今、世に教育論者あり。少年子弟の政治論に熱心なるを見て、軽躁不遜なりと称し、その罪を今の教育法に帰せんと欲するが如し。福沢先生その誣罔を弁じ、大いに論者の蒙を啓かんとて、教育論一篇を立案せられ、中上川先生これを筆記して、『時事新報』の社説に載録せられたるが、今これを重刊して一小冊子となし、学者の便覧に供すという。 明治

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徹した個人主義

佐藤春夫

荷風先生のお人柄、文業などは、簡単に語れない。僕は十九年秋、南方に従軍のとき、お別れに麻布のお屋敷に伺ったきりその後お目にかかる機会もなく今日に及んでいる。僕のところへ出入りする一人に、江東方面に住むのが、浅草へ出る荷風先生とよく電車の中で落ち合うが近ごろは橋を降りてきた先生に息切れしている様子が見え、また乗込んだ電車の中で、何やらひとりごとをつぶやいている

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徹底的な浜尾君

甲賀三郎

浜尾四郎君は鋭い頭の持主であった。それに卑しくも曖昧な事を許して置けない性質で、何事でも底まで追究しなければ止まない風があった。従って時には根掘り葉掘り問い質して、為に相手がしどろもどろになる事があった。之は一見意地悪るのようであるが、決してそうではなく、全く物事をいい加減にして置く事が出来ない為で、実は真正直な人であった。 他人に対して相当追究する一方、自

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心づくし

永井荷風

終戦後間もなく組織されたB劇団に、踊りもするし、歌もうたうし、芝居もするというような種類の女優が五、六人いた。 その中の二人は他の三、四人よりも年が上で、いずれも二十五、六。前々からきまった男を持っていた。一人は年も四十を越した一座の興行師の妾で、三ツになる子供がある。他の一人は銀座の或ダンスホールでクラリネットを吹いている音楽師を恋人にしていたが、あとの三

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心ひとつ

宮本百合子

心ひとつ 宮本百合子 是非を超えた最後の手段として離婚は認めなければなりません。内外的原因によって過った結婚をし人間としてその異性との生活が、救済の余地無い程の破綻を生じた場合、より以上の不正、人格的堕落を防止する為には、強制的、又相互的離婚を決行するよりほかありますまい。 従来の誤った結婚観念、習慣、制度を改正し、簇出しつつある多くの不正、不幸を取除くため

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心のアンテナ

佐々木邦

「四から芸引く、零残る。斯ういう算術を御存じですか?」 と銀太夫君が師匠の令嬢美代子さんに訊いた。 「何あに? もう一遍」 「師から芸引く、零残る」 「分らないわ」 「師匠から芸術を引くと零が残ります。師匠マイナス芸術、イコール零」 「そんなこと誰が仰有るの?」 「僕が考えたんです。師匠ぐらい芸道熱心の方はありません。寝ても覚めても、義太夫のことを考えていら

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心中浪華の春雨

岡本綺堂

心中浪華の春雨 岡本綺堂 一 寛延二己巳年の二月から三月にかけて、大坂は千日前に二つの首が獄門に梟けられた。ひとつは九郎右衛門という図太い男の首、他のひとつはお八重という美しい女の首で、先に処刑を受けた男は赤格子という異名を取った海賊であった。女は北の新地のかしくといった全盛の遊女で、ある蔵屋敷の客に引かされて天満の老松辺に住んでいたが、酒乱の癖が身に禍いし

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心の仕事を 或未知の友への手紙

堀辰雄

御手紙拜見しました。 ドゥイノの悲歌に就いての御質問の事、只今生憎手許に充分本がありませんので、御滿足の行くやうには御返事が出來かねますが、――第十の悲歌のあの冒頭の部分は、此の最後の悲歌の主題として考へられる、悲しみを過ぎつて本當の生に到達する「道」の探究へと我々を導いてゆくために、先づ、我々、地上の愛に充ちた者らにおける悲しみの位置といつたものをはつきり

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心は大空を泳ぐ

小川未明

いまごろ、みんなは、たのしく話をしながら、先生につれられて、知らない道を歩いているだろうと思うと、勇吉は自分から進んで、いきたくないと、こんどの遠足にくわわらなかったことが、なんとなく残念なような気がしました。 しかし、家のようすがわかっているので、このうえ、父や母に、心配をかけたくなかったのでした。 「おまえがいきたいなら、お父さんは、なんとでもして、つご

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わが心の女

神西清

わが心の女 神西清 僕がこのQ島に来てから二週間の見聞は、すでに三回にわたつてRTW放送局へ送つたテレヴィによつて大体は御承知かと思ふ。僕の滞留許可の期限は明日で切れるのだが、思ひがけぬ突発事故のため、出発は相当延びることになりさうだ。その突発事故といふのは、第一には僕を襲つた恋愛であり、第二には、昨日この島に勃発した革命騒ぎだ。島の政府は、それを反革命暴動

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心平かなり

岸田国士

心平かなり 岸田國士 不平があるなら云へといふことだが、不平を不平の形にして表はすのは如何にも芸のない話だと思ふから、近頃愉快なことだけを挙げて置かう。実を云ふと、さうする方が手取早くていゝ。 第一に、此の頃肥つたのが目立つこと。 第二に、少しぐらゐ歩いても疲れが出ないこと。 第三に、よく眠れること。 かういふことは、なるほど、読者の興味をそゝるに十分ではな

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心得教育

中谷宇吉郎

教育にはいろいろあって、上は精神教育から下は何かあるだろうが、その下に今一つ心得教育というのを入れたらどうだろうと一寸考えてみた。それは教育方法をすべて出来るだけ卑近な心得だけに限定するのである。例えば、煙草喫みに節煙をすすめる時ならば、煙草の害と精神力の価値とを説く代りに、「二本続けて喫うことを止めろ」というふうな心得教育をするのである。胃の弱い男によく噛

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心悸亢進が回復す

牧野信一

今年の一月ごろから僕は持越の神経衰弱が、いよ/\あざやかになつて都会を離れなければならなかつた。永年飲みなれた酒が全く文字通りに一杯も口に入らず、無理矢理に注ぎ込まうと試みると、いさゝかの酔も感ぜぬうちに忽ち吐き出して了ふのだつた。そして間断もなく不気味な心悸亢進に悩まされ続けるのである。それらの症状に就いて云云すれば際限もないはなしであるが、いつも/\不快

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心持について

宮本百合子

心持について 宮本百合子 或瞬間(思い出) 正午のサイレンが鳴ってよほど経つ 少し空腹 工事場でのこぎりの音 せわしい技巧的ななめらかな小鳥のさえずり、いかにも籠の小鳥らしい美しさで鳴く とつぜん ガランガランと 豆屋のベルの音がした。 そして私は思い出した。刑務所の さむい朝と 夜とを、 主として夜を その音が どっか遠くで順々にきこえ いつも最後に女舎で

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心の故郷

正宗白鳥

暮れに、私の家の近所を散歩してゐると、東京工業大學の門前でカミュの『誤解』上演と記されたお粗末な紙看板が目にとまつた。演劇部と記されてゐるので、この學校にでも芝居なんかやる學生があるのかと不思議に思つた。私は學校芝居は殆んど見たことはないし、見ようと思つたこともなかつたのだが、カミュの戯曲『誤解』は、なにかの雜誌に出てゐた飜譯で讀んで、ひどく面白く感じたこと

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心機妙変を論ず

北村透谷

心機妙変を論ず 北村透谷 哲学必ずしも人生の秘奥を貫徹せず、何ぞ況んや善悪正邪の俗論をや。秘奥の潜むところ、幽邃なる道眼の観識を待ちて無言の冥契を以て、或は看破し得るところもあるべし、然れども我は信ぜず、何者と雖この「秘奥」の淵に臨みて其至奥に沈める宝珠を探り得んとは。 むかし文覚と称する一傲客、しばしが程この俗界を騒がせたり。彼は凡ての預言者的人物の如く生

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心の河

宮本百合子

心の河 心の河 宮本百合子 一 庭には、檜葉だの、あすなろう、青木、槇、常緑樹ばかり繁茂しているので、初夏の烈しい日光がさすと、天井の低い八畳の部屋は、緑色の反射でどちらを向いても青藻の底に沈んだようになった。 ぱっとした、その癖何となく陰気なその部屋に独りぽつねんと坐って、さよは一つのことを考えていた。考えというのはオゥトミイルについてであった。彼女は、竹

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心の王者

太宰治

先日、三田の、小さい学生さんが二人、私の家に参りました。私は生憎加減が悪くて寝ていたのですが、ちょっとで済む御話でしたら、と断って床から抜け出し、どてらの上に羽織を羽織って、面会いたしました。お二人とも、なかなかに行儀がよろしく、しかもさっさと要談をすまし、たちどころに引上げました。 つまり、この新聞に随筆を書けという要談であったわけです。私から見ると、いず

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心理的と個性的

中原中也

裕福な家庭の、特に才能があるといふ程でもない青年が、「文学でもやつてみるか」といつた調子で、文学志望を抱いたとする。四年五年と経つても、いつかう何も書けさうもない。「書いてゐる奴等はいつたい、いかなれば書けるのであらう?」とやがてだんだん愚痴になる。おのづと「書いてゐる奴等」のアラを探しだす。「アラだらけだ!」と彼は思ふ、「あんなにアラがあるから、あのアラが

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