Vol. 2May 2026

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公共领域世界知识图书馆

14,981종 중 13,848종 표시

銭形平次捕物控 164 幽霊の手紙

野村胡堂

江戸開府以來の捕物の名人と言はれた錢形の平次が、幽靈から手紙を貰つたといふ不思議な事件は、子分のガラツ八こと、八五郎の思ひも寄らぬ縮尻から始まりました。 「親分、近頃は暇ですかえ」 「なんて挨拶だ。いきなり人の前へ坐つて、懷手をしたまゝ長い頤を撫でながら――暇ですかえ――といふ言ひ草は?」 平次は脂下りに噛んだ煙管をポンと叩くと、起き上がつてこの茫とした子分

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銭形平次捕物控 165 桐の極印

野村胡堂

「親分、變な奴が來ましたよ」 ガラツ八の八五郎は、長んがい顎を鳶口のやうに安唐紙へ引つ掛けて、二つ三つ瞬きをして見せました。 「お前よりも變か」 何んといふ挨拶でせう。錢形平次は斯んなことを言ひ乍ら、日向に寢そべつたまゝ、粉煙草をせゝつて居るのです。 「へツ、あつしよりは若くて可愛らしいので」 「新造か、年増か、それとも――」 「何處かの小僧ですよ。――錢形

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銭形平次捕物控 166 花見の果て

野村胡堂

菊屋傳右衞門の花見船は、兩國稻荷の下に着けて、同勢男女十幾人、ドカドカと廣小路の土を踏みましたが、 「まだ薄明るいぢやないか、橋の上から、もう一度向島を眺め乍ら、一杯やらう」 誰やらそんなことを云ふと、一日の行樂をまだ堪能し切れない貪婪な享樂追及者達は、 「そいつは一段と面白からう、酒が殘つて居るから、瓢箪に詰めて、もう一度橋の上に引返さう、人波に揉まれ乍ら

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銭形平次捕物控 167 毒酒

野村胡堂

「親分、今日は、良い陽氣ですぜ。家の中に引つ込んで、煙草の煙の曲藝をやつてゐるのは勿體ないぢやありませんか」 ガラツ八の八五郎は、入つて來るなり、敷居際に突つ立つて、斯んな事を言ふのです。 「大きなお世話だよ、どうせお前のやうに、空つ尻のくせに、花見に出かけるほどの膽力はないからだよ。――陽氣が良いから、日向に引つくり返つて居ても、トロリと醉ひ心地になるぜ」

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銭形平次捕物控 168 詭計の豆

野村胡堂

「親分、四谷忍町の小松屋というのを御存じですか」 「聞いたことがあるようだな――山の手では分限のうちに数えられている地主かなんかだろう」 銭形平次が狭い庭に下りて、道楽の植木の世話を焼いていると、低い木戸の上に顎をのっけるように、ガラッ八の八五郎が声を掛けるのでした。 「その小松屋の若旦那の重三郎さんを案内して来ましたよ。親分にお目にかかって、お願い申上げた

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銭形平次捕物控 168 詭計の豆

野村胡堂

「親分、四谷忍町の小松屋といふのを御存じですか」 「聞いたことがあるやうだな――山の手では分限のうちに數へられてゐる地主か何んかだらう」 錢形平次が狹い庭に下りて、道樂の植木の世話を燒いて居ると、低い木戸の上に顎をのつけるやうに、ガラツ八の八五郎が聲を掛けるのでした。 「その小松屋の若旦那の重三郎さんを案内して來ましたよ。親分にお目にかゝつて、お願ひ申上げた

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銭形平次捕物控 169 櫛の文字

野村胡堂

「親分、良い陽氣ですね」 「何んだ、八にしちや、大層お世辭が良いぢやないか。何にか又頼み度い事があるんだらう。金か御馳走か、それとも色の取持か。どつちだ」 錢形平次と八五郎は、斯んな調子で話を始めたのです。 「そんな氣障なんぢやありませんよ。金はふんだんにあるし、うまい物は腹一杯に食べてゐるし、女の子はうるさいほど付き纒ふし、此樣子ぢやどうも身が保てねえ」

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銭形平次捕物控 170 百足屋殺し

野村胡堂

「親分、お早やうございます。――お玉ヶ池の邊に、妙な泥棒がはやるさうですね」 ガラツ八の八五郎は、朝の挨拶と一緒に、斯うニユースを持つて來るのが、長い間の習慣でした。錢形平次に取つては、まことに結構な順風耳ですが、その代りモノになるのはほんの十に一つで、あとは大抵愚にもつかぬ、市井の噂話に過ぎなかつたのです。 「妙な泥棒は苦手だよ。此間もうちの三毛猫を盜んだ

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銭形平次捕物控 171 偽八五郎

野村胡堂

「八、お前近頃惡い料簡を起しやしないか。三輪の萬七親分が變なことを言つて居たやうだが――」 八五郎の顏を見ると、錢形平次はニヤリニヤリと笑ひ乍ら、こんな人の惡いことを言ふのです。 「それですよ、親分。あつしはそんな惡い人間に見えますか」 八五郎は少しばかり肩肘を張ります。 「甘い人間だとは思つて居るが、惡い人間とは氣が付かなかつたよ。尤もさう果し眼になると、

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銭形平次捕物控 172 神隠し

野村胡堂

「親分は長い間に隨分多勢の惡者を手掛けたわけですが、その中で何んとしても勘辨ならねエといつた奴があるでせうね」 ガラツ八の八五郎は妙なことを訊ねました。 晩秋のある日、神田の裏長屋の上にも、赤蜻蛉がスイスイと飛んで、凉しい風が、素袷の襟から袖から、何んとも言へない爽快さを吹き入れます。 「それはある」 平次は煙管を指の先で廻し乍ら、あれか、これかと考へて居る

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銭形平次捕物控 173 若様の死

野村胡堂

「親分、是非逢ひ度いといふ人があるんだが――」 初冬の日向を追ひ乍ら、退屈しのぎの粉煙草を燻して居る錢形平次の鼻の先に、ガラツ八の八五郎は、神妙らしく膝つ小僧を揃へるのでした。 「逢つてやりや宜いぢやねえか、遠慮することはあるめえ、――相手は新造か年増か、それとも婆さんか」 「あつしぢやありませんよ。錢形の親分に逢ひ度いんださうで、染井からわざ/\神田まで、

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銭形平次捕物控 174 髷切り

野村胡堂

「あれを聽いたでせうね、親分」 ガラツ八の八五郎は、この薄寒い日に、鼻の頭に汗を掻いて飛込んで來たのです。 「聽いたよ、新造に達引かしちやよくねえな。二三日前瀧ノ川の紅葉を見に行つて、財布を掏られて、伴の女達にお茶屋の拂ひまでして貰つたといふ話だらう」 錢形平次は立て續けに煙管を叩いて、ニヤリニヤリとして居るのです。 「そんなつまらねえ話ぢやありませんよ。親

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銭形平次捕物控 174 髷切り

野村胡堂

「あれを聴いたでしょうね、親分」 ガラッ八の八五郎は、この薄寒い日に、鼻の頭に汗を掻いて飛込んで来たのです。 「聴いたよ、新造に達引かしちゃよくねえな。二三日前瀧ノ川の紅葉を見に行って、財布を掏られて、伴の女達にお茶屋の払いまでして貰ったという話だろう」 銭形平次は立て続けに煙管を叩いて、ニヤリニヤリとして居るのです。 「そんなつまらねえ話じゃありませんよ。

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銭形平次捕物控 175 子守唄

野村胡堂

「親分、笑つちやいけませんよ」 ガラツ八の八五郎が、いきなりゲラゲラ笑ひながら親分の錢形平次の家へ入つて來たのでした。 「馬鹿野郎。頼まれたつて笑つてやるものか、俺は今腹を立ててゐるんだ」 「へエー。何がそんなに腹が立つんで?」 八五郎は漸くその馬鹿笑ひに緩んだ顏の紐を引締めました。 「お前のゲラゲラ笑ふ面を見ると腹が立つよ。虫のせゐだな」 「なんだ、そんな

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銭形平次捕物控 176 一番札

野村胡堂

「親分、あつしはよく/\運が惡いんだね」 ガラツ八の八五郎は、なんがい顎を撫でながら、つく/″\斯んな事をいふのです。そのくせ下がつた眼尻も、天井を向いた鼻も悉く樂天的で、たいして悲觀した樣子もありません。 「大層腐つてゐるぢやないか。煮賣屋のお勘子が嫁にでも行つたのかえ」 錢形平次はのつけからからかひ面でした。どんなに芝居がゝりの思ひ入れをして見せても、八

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銭形平次捕物控 177 生き葬ひ

野村胡堂

「親分、向島の藤屋の寮で、今日生き葬ひがあるさうですね」 ガラツ八の八五郎は、相變らず鼻をヒクヒクさせながらやつて來ました。 「俺はこれから、その生き葬ひへ出かけるところよ。お前も一緒に行つて見ないか」 錢形平次は嗜みの紙入を懷ろに落して、腰へ煙草入を差すと立上がりました。 「御免蒙りませう。親分のお供は有難いが、あつしは生き葬ひを出す奴と、死に金を貯める奴

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銭形平次捕物控 178 水垢離

野村胡堂

飯田町の地主、朝田屋勘兵衞が死んで間もなく、その豪勢な家が、自火を出して一ぺんに燒けてしまつたことがあります。火事は幸ひ一軒で濟みましたが、主人勘兵衞が死んだ後、思ひの外の大きい借金があつたりして、暮を越し兼ねての細工ではないかなどと、變な噂が立つたりしたものです。 「へツ、へツ、親分、變なことがありましたよ」 ガラツ八の八五郎相好を崩して飛込んで來たのは、

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銭形平次捕物控 179 お登世の恋人

野村胡堂

「親分妙なことがありますよ」 ガラツ八の八五郎は、入つて來るといきなり洒落た懷中煙草入を出して、良い匂ひの煙草を立て續けに二三服喫ひ續けるのでした。 「陽氣のせゐだね。俺の方にも妙なことがあるんだが――」 錢形の平次は、肘枕を解くと、起直つてたしなみの襟などを掻き合せます。 「へエー、不思議ですね。親分の方の妙な事といふのはなんで?」 ガラツ八は鼻の下を長く

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銭形平次捕物控 180 罠

野村胡堂

「こいつは驚くぜ、親分」 ガラツ八の八五郎は、相變らず素頓狂な聲を出し乍ら飛込んで來ました。急に春らしくなつて、櫻の蕾がふくらみさうなある日の午頃のことです。 「驚くよ、八五郎が馬を曳いて來たつて、暮れ以來お手許不如意で、兩と纒まつた金はあるめえよ、なアお靜」 平次はお勝手で水仕事をしてゐる女房に聲を掛けました。 「馬なんか曳いちや來ませんよ」 八五郎の甚だ

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銭形平次捕物控 181 頬の疵

野村胡堂

「わツ、親分」 まだ明けきらぬ路地を、鐵砲玉のやうに飛んで來たガラツ八の八五郎。錢形平次の家の格子戸へ、身體ごと拳骨を叩き付けて、お臍のあたりが破けでもしたやうな、變な聲を出してわめき散らすのです。 「何といふ聲を出すんだ、朝つぱらから。御近所の衆は番毎膽を冷やすぜ」 平次は口小言をいひ乍らも、事態重大と見たか、寢卷の前を掻き合せて、春の朝靄の中へ、眠り足ら

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銭形平次捕物控 182 尼が紅

野村胡堂

「親分、変なことがあるんだが――」 「お前に言わせると、世の中のことは皆んな変だよ。角の荒物屋のお清坊が、八五郎に渡りをつけずに嫁に行くのも変なら、松永町の尼寺の猫の子にさかりが付くのも変――」 「止して下さいよ、そんな事を、みっともない」 銭形平次と子分の八五郎は、相変らずこんなトボケた調子で話を運ぶのでした。平次の恋女房のお静は、我慢がなり兼ねた様子で、

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銭形平次捕物控 182 尼が紅

野村胡堂

「親分、變なことがあるんだが――」 「お前に言はせると、世の中のことは皆んな變だよ。角の荒物屋のお清坊が、八五郎に渡りをつけずに嫁に行くのも變なら、松永町の尼寺の猫の子にさかりが付くのも變――」 「止して下さいよ、そんな事を、見つともない」 錢形平次と子分の八五郎は、相變らず斯んなトボケた調子で話を運ぶのでした。平次の戀女房のお靜は、我慢がなり兼ねた樣子で、

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銭形平次捕物控 183 盗まれた十手

野村胡堂

兩國の川開きが濟んで間もなく、それは脂汗のにじむやうな、いやに、蒸し暑い晩でした。その頃上方から江戸に入つて來て、八百八町の恐怖になつた、巾着切と騙りの仲間――天滿七之助の身内十何人を珠數つなぎにして、江戸つ子達にやんやと喝采を送られた錢形平次と八五郎は、町奉行村越長門守樣小梅の寮に招かれ、丁寧なねぎらひの言葉があつた上、別室で酒肴を頂いて、寮を出たのはかれ

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銭形平次捕物控 184 御時計師

野村胡堂

「親分、ちよいと智慧を貸して下さい。大變なものが無くなりましたよ」 ガラツ八の八五郎、相變らずのあわてた調子で、錢形平次の家へ飛び込みました。 江戸の夏を飾る年中行事も一わたり濟んで、この上は抹香臭いお盆を待つばかりといふ頃。十日あまり照り續いた往來の土埃を、少々長刀になつた麻裏草履に蹴飛ばして、そのまゝ拭き込んだ上がり框に飛び上がるのですから、女房のお靜が

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