伊丹万作 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
余裕のことなど 伊丹万作 近ごろの世相は私に精神的呼吸困難を感じさせることが多い。しかし、日本人がもしも本来の大和心というものを正しく身につけているならば、世の中が今のようにコチコチになつてしまうはずはないのである。 たとえば直情径行は大和心の美しい特質の一つであるが、近ごろの世の中のどこを見てもそのようなものはない。 直情径行といえばすぐに私は宇治川の先陣あらそいでおなじみの梶原源太景季を想い出す。 「平家物語」に出てくる人間の数はおびただしいものであるが、それらの全体をつうじてこの源太ほど私の好きな人間はいない。 だれでも知つているとおり、源太は頼朝が秘蔵の名馬生食を懇望したがていよく断られた。そしてそのかわりに生食には少し劣るが、やはり稀代の逸物である磨墨という名馬を与えられた。源太はいつたんは失望したが、しかし生食が出てこぬかぎり、味方の軍勢の中に磨墨以上の名馬はいないので、その点では彼は得意であつた。 源太はある日駿河浮島原で小高い所にのぼり、目の前を行き過ぎるおびただしい馬の流れを見ていた。 どの馬を見ても磨墨ほどの逸物はいないので彼はすつかり気をよくして上機嫌になつていた

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