伊藤野枝 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
四年ばかりも前に鴈治郎が新富座で椀久を出した時に、私と哥津ちやんと保持さんが見にゆく約束をしました。さうして私と保持さんは始めから一緒に行つて、新富町についてから哥津ちやんに散々待ち呆けを喰されたあげく、這入つた時にはもう満員ですわる所がないやうな有様でした。しかし出方のあつかひで私達は二階の帳場に席をとりました。 其時の幕間にいきなり小母さんの座つてゐる前にヌーツと立つた人があります。 「酒を飲む所は何処です。」 と聞きました。 「知りません。」 小母さんもまた、ひどく「ぶつきら棒」に答へた後にハツとしたやうに顔を真紅にしました。私は何にも気がつかずに廊下へ出て行くその人の後姿を見送つてゐます。 「一寸、あの人、森田さんよ」 と小母さんは私の方を向いて云ひました。 「森田さんつて誰よう」 「ほら、草平つて人よ、平塚さんの――」 「へえ、彼の人が、まあ」 私はつゞけざまに、吃驚して廊下の方を見たときには、その人はもう影も形もありませんでした。 本当に、あんまり思ひがけないのでびつくりしたのです。「へえ、まあ」と幾度も私は繰り返しました。それ程草平と云ふ人が私には想像と違つた人だつたので

翻訳状況
待機中ログイン後に翻訳をリクエストできます。
よくある質問
Yes — completely free. This book is in the public domain, so Pagera offers the full text without payment or account requirement. Pagera is funded by advertising.
無料でご利用いただけます
会員登録なしですぐに読み始められます。さらに多くの書籍と機能は無料会員登録後にご利用いただけます。